世界一派手かもしれない空中給油機誕生! 正体は英王室御用達機…VIP運ばずなぜ燃料?
さらには民間会社の所有機…どういうこと?
実のところ「ベスピナ」を含めたA330-200MRTTはイギリス空軍の所有物ではなく、エアバスやロールス・ロイスなどが出資して設立した「エア・タンカー」と呼ばれる民間会社の所有物です。
日本でも行政が直接投資せず、民間の資金で施設の整備と運営を行ない、そのサービスの代価を行政府が支払う「PFI(Privete Finance Initiative)」と呼ばれる手法で、病院や公園などの公共施設を整備する事例が増えており、たとえば貨客船「はくおう」は、高速マリン・トランスポート(東京都千代田区)の所有船で、これを防衛省がチャーターし、災害派遣などに使用しています。「ボイジャー」もこの、PFIの手法で導入されたものです。
「ボイジャー」のPFI契約には、平時にはエア・タンカーが所有する14機のA330-200MRTTのうち、イギリス空軍専用機ではない5機を自由に運用できるという条項が含まれています。
「ボイジャー」の導入が決定した2004(平成16)年の時点では、ヨーロッパ全体の空中給油機の数がそれほど多くなかったため、イギリス政府とエア・タンカーはNATO(北大西洋条約機構)加盟国の要求に応じて「ボイジャー」で空中給油や輸送を行ない、収益を上げることを考えていましたが、その後ヨーロッパ全体で空中給油機が増加したことから、そうしたビジネスモデルの継続は困難になりました。
そこでエア・タンカーは5機のA330-200MRTTの客室を完全な民間旅客機仕様に改修し、大手旅行会社トーマスクック傘下の航空会社トーマスクック・エアラインに貸し出し、同社はイギリスと中南米のリゾート地を結ぶ路線などでA330-200MRTTを使用しています。
イギリスでは空軍のヘリコプターパイロットスクールや弾道ミサイル監視施設などの運営にも、PFIの手法を採用しています。PFIには民間企業が破綻した場合、必要なサービスの提供を受けられなくなるといった問題点もあり、その手法を国防で用いることには賛否両論あります。
しかし、限られた予算のなかで必要な装備品を導入したり施設を運用したりするために、柔軟な手法を用いるイギリス政府の姿勢には、日本も参考にすべきところがあると筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。
【了】
Writer: 竹内 修(軍事ジャーナリスト)
軍事ジャーナリスト。海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書は「最先端未来兵器完全ファイル」、「軍用ドローン年鑑」、「全161か国 これが世界の陸軍力だ!」など。
空中給油機には乗ってみたいけれど、トーマスクック・エアラインって親会社の破産により2019年9月23日から運航停止なっていませんでしたっけ?