旧海軍空母「信濃」 護衛艦隊 米潜水艦…三者三様の立場から見る「運命の22時間」

地味任務潜水艦が引き当てたラッキーヒット

 アメリカ潜水艦「アーチャーフィッシュ」は、日本を空襲するB-29のための気象情報通報と不時着機乗員救助が任務で、浜名湖(静岡県)南の沖合、約160kmの位置に居ました。11月28日20時48分、不調だったレーダーが復旧してすぐに巨大な影を捉えます。レーダー士官は「島が動いている」と報告したともいわれます。

 この島の正体を探ろうと、「アーチャーフィッシュ」は浮上したまま全速力で追尾しました。

「日本海軍はこんなフネを持っていません」

 かなり正確だったアメリカ海軍の日本艦型識別帳にも、絶対の秘密艦であった「信濃」の記載はありません。「アーチャーフィッシュ」の艦長エンライト中佐は、日本海軍にはまだどれだけ秘密の大型艦が残っているのかと、不安さえ感じたそうです。

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アメリカ海軍潜水艦「アーチャーフィッシュ」(画像:アメリカ海軍)。

「アーチャーフィッシュ」が発したレーダー電波は「信濃」隊に捕捉されます。その方向に潜水艦らしき影を見つけた「浜風」は全速で「アーチャーフィッシュ」に肉薄しようとします。しかし22時45分、「護衛艦は持ち場に戻れ」の赤色発行信号が発せられたのです。艦影暴露を恐れる阿部艦長は発砲も禁じ、「浜風」は呼び戻されてしまいます。

 阿部艦長は敵潜水艦が1隻ではなく、複数艦で包囲する戦術(いわゆる群狼戦術)だと信じて、「アーチャーフィッシュ」を囮と判断し、第17駆逐隊に「信濃」から離れることを許さなかったのです。しかし実際には、アメリカ潜水艦は1隻だけでした。

 攻撃を免れた「アーチャーフィッシュ」は、「信濃」たちの進路の先回りに成功します。そして翌29日午前3時18分に6発の魚雷を発射し、4発が「信濃」へ命中しました。「アーチャーフィッシュ」の記録によれば、午前3時45分までの15分間に第17駆逐隊から14発の爆雷投射を確認しましたが、被害はありませんでした。ただ、このとき仕留めた獲物が当時、世界最大の空母であったことを知るのは戦後になってからのことです。

 浸水を止められず機関が停止した「信濃」は、午前10時37分に総員退艦を発令、午前10時55分(57分説もあり)に転覆、艦尾から沈没します。

 運命の28日22時45分、「浜風」がそのまま「アーチャーフィッシュ」を攻撃していたら「信濃」は助かっていたのでしょうか。歴史にIFはありません、想像しても詮無いことです。

【了】

【画像】空母「信濃」の(予定)航路と「アーチャーフィッシュ」の行動

Writer: 月刊PANZER編集部

1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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