ギリシャが買った戦闘機「ラファール」って? 「タイフーン」との因縁 フランスの意地

就役中の機を割譲してまでのギリシャへの売却 やはりワケあり?

 冒頭で述べた、ギリシャ空軍に売却される「ラファール」18機のうち12機は、ギリシャが早急に新戦闘機を必要としていることなどから、最近フランス航空宇宙軍に引き渡された機体を割譲し、残る6機をダッソー・アビエーションが新たに製造します。

 これを受ける形でフランス軍事省は、ダッソー・アビエーションとギリシャとの契約が締結された4日後の2020年1月29日に、フランス空軍向け「ラファールC」12機の導入契約を同社と締結しています。この契約は単にギリシャへ割譲された機体を補充するだけではなく、開発が進められている「ラファール」の最新バージョン「F4」仕様の生産が開始されるまで、生産ラインを維持するという狙いもあります。

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「ラファールC」12機の導入契約書に署名するフランスのフロランス・パルリ軍事大臣(画像:ダッソー・アビエーション)。

 この「F4仕様」は、F-35や航空自衛隊のF-2などと同様に、探知距離の長い「RBE2」AESA(アクティブフェイズド・アレイ)レーダーを搭載するほか、サイバー攻撃に対する防御能力の追加や、搭載できる兵装の種類の増加などが計画されています。

 F4仕様の生産開始は2025年からの予定ですが、フランス軍事省は既存の「ラファール」のPESAレーダーをAESAレーダーに換装し、搭載可能な兵装数が増加する「F3R」仕様への改修も進めています。ちなみにPESAレーダーからAESAレーダーへの換装も大規模な機体の改修はもちろんソフトウェアの更新すら必要とせず、換装作業は2時間程度で完了するといわれています。

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「ラファール」F3RとF4に搭載される「RBE2」AESAレーダーの実大モックアップ。

 フランスは2019年6月にドイツ、スペインとの間で、「ラファール」と「タイフーン」を後継する新戦闘航空システム「FCAS(Future Combat Air Systems)」の共同開発に合意し、3か国は開発作業を進めていますが、先進的なシステムであるFCASの開発は難航も予想されています。

「ラファール」の能力を絶え間なく向上させてFCASの開発が遅延した場合に備えると共に、輸出市場でも長期に渡って競争力を得ていこうとする戦略は、フランスが将来に渡って軍事的にも、航空防衛産業においても、世界で大きな存在感を示していこうという意志を示したものといえるでしょう。

【了】

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Writer: 竹内 修(軍事ジャーナリスト)

軍事ジャーナリスト。海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書は「最先端未来兵器完全ファイル」、「軍用ドローン年鑑」、「全161か国 これが世界の陸軍力だ!」など。

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コメント

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2件のコメント

  1. ウエポンシステムが事実上専用になるから、次期の機体に制約が出るんだよな。
    ギリシャもミラージュ2000を使っていたから、それと同時買っている武装が転用できるからすんなりと変えたし、逆を言えばF-16も使っているから、F-16系やEF2000辺りはF-16を買った時の武装が転用可能だからさっさと売らないと、そちらにシェアを取られるわな。

  2. 近年はスクランブルやポイント攻撃以外の戦闘機の役割がよくわからない。
    攻撃目標物の破壊ならば、
    複数の高精度スパイ衛星と
    複数の偵察および攻撃目標座標ロック用の長時間作戦可能ドローンと
    無線リンクさせた中・長距離超高速ミサイルで
    偵察も攻撃も済んでしまう。

    一番謎なのが、対衛星兵器。
    全ての作戦に必要不可欠な敵対国の衛星を
    軌道上で無能にするか破壊することは作戦上非常に有効だが、
    衛星軌道上にデブリを増やすだけで、そのうち自国や同盟国の衛星まで悪影響を及ぼすだろう。
    墜落させて大気圏で燃やしてくれるなら話は別だが。

    現代は大規模な消耗戦や破壊でなく、
    生物・環境兵器、通信妨害・遮断、金融・通貨の遮断、国の閉鎖措置、情報戦略で
    相手国を孤立化・疲弊させる方法が主流なので、
    「攻撃」方法そのものが変わってしまっている気がする。