世界最大の戦艦「大和」46cm砲に匹敵 ドイツ巡洋戦艦の28cm砲 使い方は真逆の発想?

「大和」の主砲に肩並べるドイツ戦艦の28cm砲

 一般的には、「大口径=大威力・長射程」という式が当てはまりますが、ドイツ海軍は少々異なっていました。というのも同海軍は、海霧や靄が発生しやすく視程が制限されるバルト海や北海で戦う機会が多かったため、実戦では遠距離砲戦がそう簡単には行われないということを、身近で理解していたのです。

 加えて砲戦距離が長ければ長いほど、砲弾が空中を飛ぶ時間が長くなるほか、散布界も広がって命中率も低くなるため、敵艦の発砲炎を確認したら速やかに転舵すれば、敵弾を回避できる可能性も高くなります。

 こういったことから、ドイツ海軍は戦艦の主砲について、口径はそこまで大きくせず、むしろ高初速なものを求めるようになっていきました。つまり、小口径ながら発射薬の量が多いため、初速が速い砲弾を比較的近い距離から水平射撃のような撃ち方をして、垂直面の装甲貫通力の強さで敵を圧倒しようとしたのです。加えて、近距離ならば砲弾がバラつかず、ほど広がらないので命中率も向上します。

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ドイツ海軍のシャルンホルスト級巡洋戦艦の2番艦「グナイゼナウ」(画像:アメリカ海軍)。

 このような考えに加えて、より大口径の38cm砲が当時まだ開発中だったこともあり、第2次大戦前夜に就役したシャルンホルスト級巡洋戦艦は、他国の同時期に就役した戦艦と比べ口径の小さい28cm砲を9門、主砲として備えていました。なお、前述したように同砲の初速は890m/秒、これにより近~中距離では弾道が低伸し、優れた命中精度と垂直装甲に対する高い装甲貫徹力を有していました。

 この高初速は結果的に最大射程にも大きく影響を与えたようで、シャルンホルスト級の28cm砲は遠距離砲戦を想定していないものの、大和型の46cm砲に比肩する最大射程約41kmを誇っていました。シャルンホルスト級の主砲口径は28cmなので、大和型の46cm砲と比べると18cmも口径が小さいにもかかわらず、最大射程はわずかに約1km劣っただけなのです。

 とはいえ、これは前出のとおり高初速の副次的効果であり、ドイツ海軍は、その長大な射距離を活かすような戦い方は全く考えておらず、そのための訓練もしていなかったのが実情です。その点では、最初から「アウトレンジ」攻撃を想定していた旧日本海軍とは大きく異なっていたといえるでしょう。

 一方で、シャルンホルスト級の28cm主砲について、ドイツ海軍としても将来的な火力強化という観点に基づき、同級の設計段階から、既述のように当時開発中だった38cm砲が完成したあかつきには同砲への換装も考慮されていましたが、結局のところこの改修は実現しませんでした。

【了】

【写真】どっちが強い? 日独の戦艦の主砲を見比べ 大和型&シャルンホルスト級

Writer: 白石 光(戦史研究家)

東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。

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コメント

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2件のコメント

  1. この記事はやや誤解を生むのではないかと思う。

    大和の敵となる戦艦が40km弱の射程であるのに対して、42kmの射程の大和。敵国の砲弾の届かないところからと書いてあるので、38〜42km程度で戦うように読めてしまう。

    しかし、遠距離側は、重力による加速がつくので、距離が離れれば離れるほど威力が増す。
    つまり、大和がどんな装甲を施しても30km以遠であれば、敵の小口径の主砲は大和の装甲を貫いてしまうことになる。アウトレンジどころか数km距離を間違うだけで、致命傷を受けてしまう距離が遠距離砲戦(もちろん命中率は下がるが、40kmでの命中を期待してなかったのは日本海軍も同じ)

    敵の主砲では貫かれないが、こちらが貫けるというのが「真のアウトレンジ」であるわけで、この距離は対米戦艦では、大和ではおおよそ20〜28km程度になる。砲戦はいかに遠距離側で敵から貫かれてしまう(お互い)の部分を素早くくぐり抜け、この砲戦距離に潜り込むかが勝負。この距離が、日本海軍も大和で想定していた距離で、30km以遠で敵の砲弾に耐えることは設計要求にもありません。

    そして、列強戦艦の砲戦距離より近いところでの威力を重視してしまったがために、まるで役に立たない駄作になってしまったのがドイツ戦艦(霧の中で突然近距離に敵がいたというラッキーを建艦時に期待するのでなければ)

    • 全く仰る通りですね。さらに言えば、戦艦の近距離防御力と遠距離防御力は全然違うものです。
      近距離から高い初速で放たれる砲弾は戦艦の主装甲帯である側面装甲に当たります。
      が、遠距離から飛来する砲弾は初速を失い、大きな放物線を描いて落ちてくるので、その大半、6割が薄い甲板装甲に垂直に近い角度で当たります。これが遠距離砲戦の恐怖です。で、高初速、軽量砲弾は最悪で、近距離の貫通力以外に取柄がありません。遠距離でもそこそこの速度を持つ高速砲弾は甲板装甲に鋭角で当たってしまい大抵弾かれます。90度に近い鈍角で当てる為には仰る様に40キロ以上先から当てる必要があり、現実的ではない。さらに言えば軽い砲弾は遠距離では重量が無いので放物線軌道の重力加速も弱いヘロヘロ弾になってしまう、更に炸薬量も少ない。褒める所が見当たりません。最初に遠距離砲戦で英海軍に一泡吹かせたのは第一次大戦のドイツ大海艦隊です。が敗戦後にその知識、能力は散佚してしまい、第2次世界大戦時の駄目駄目ドイツ海軍を生み出します。実に、実に悲しい事です。
      良いとこ無しの駄目砲弾、駄目駄目主砲です。戦艦主砲は大口径、短砲身が最強。遠近どちらでも強大な貫通力、貫通後の大破壊をもたらします。ビバ大艦巨砲主義!!