一体いくつある?「クイーン・エリザベス」という名の船 軍艦と客船は「同名」でも「別人」
3代にわたって使われる客船「クイーン・エリザベス」
興味深いのは、戦艦「クイーン・エリザベス」と就役期間が一部重なる形で、イギリスの船会社キュナード・ラインが保有する旅客船「クイーン・エリザベス」が現役だったことでしょう。
客船「クイーン・エリザベス」は1940(昭和15)年に就役し、1968(昭和43)年まで運行されていたため、戦艦と客船、2隻の「クイーン・エリザベス」は1940(昭和15)年から1948(昭和23)年までの約8年間、並存していたことになります。
ただし、客船のほうはエリザベス・ボーズ=ライアン、すなわちジョージ6世の王妃で、現在のエリザベス2世の母堂の名前にちなんでいました。つまり、同時期に同名の戦艦と客船が存在していたとはいえ、各々の「エリザベス」は“別人”ということになります。
ちなみに旅客船「クイーン・エリザベス」は、就航当時は世界最大の客船で、以降、1996(平成8)年まで56年間にわたってその座にありました。
この旅客船「クイーン・エリザベス」の後継船が、同じくキュナード・ラインが運航したクルーズ客船「クイーン・エリザベス2」です。とはいえ、この船名は現在のエリザベス2世が由来というわけではなく、先代の旅客船「クイーン・エリザベス」の2代目という意味で付けられています。ゆえに船名は、やはりエリザベス2世の母君エリザベス・ボーズ=ライアンが由来となっています。
なお、船会社キュナード・ラインは2010(平成22)年10月、クルーズ客船「クイーン・エリザベス2」の後継として、新船「クイーン・エリザベス」を就役させていますが、これもエリザベス・ボーズ=ライアンが由来であり、船名継承という形です。
一方、2017(平成29)年12月にはイギリス海軍の空母「クイーン・エリザベス」が就役したため、約70年ぶりに“軍艦としての女王と民間船としての王妃が並存”するという状態が出現しています。
【了】
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。
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