管制官の選ぶ「神着陸」! ポイントは「降りた後」? 予測を覆す “挙動”と利点とは

離脱のタイミングはどう決まる?「神着陸」もこれが関係

 航空機が誘導路へと進入するポイントは、原則「操縦士は管制官からの指示がない場合は、滑走路占有時間(滑走路上の滞在時間)が最短となる誘導路から滑走路を離脱する」という国土交通省の規定(国際基準にも準拠)に基づいたものとなります。ただ、空港は365日稼働しているわけで、天候・風・滑走路面のコンディションなどは毎日違いますし、飛んでくる便ごとに接地点、接地直前の速度も異なります。

 そうしたなか航空管制官は、航空機の挙動から確実に「どこで滑走路を離れるか」を見極める必要があるのです。そうやって見極める経験を積むうちに、接地点とその後の減速具合を見れば9割方はどこを曲がるか確信が持てるようになります。

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成田空港A滑走路の航空路図。青線がA滑走路とつながる取付誘導路や高速離脱誘導路(画像:国土交通省 AIS JAPAN)。

 ところが、その航空管制官の“確信”をも上回るパフォーマンスを見せる航空機が稀にいるのです。ほとんどの航空機が、悪天候や滑走路面のコンディションがベストとはいえない状況などで、平常時のような狙い通りの着陸が出来ずに、滑走路の端から離れた距離にある誘導路から離脱せざるを得ないなか、その機は接地点標識ピッタリに接地し、一気に減速後、予想よりも手前の誘導路をスムーズに曲がっていくのです。こういう機に遭遇したときには、航空管制官もいい意味で、意表を突かれる感覚になります。

 実際この現象は、航空管制の面においても大きなメリットをもたらします。想定していた1機分の滑走路占有時間が15秒から20秒近く短縮されることも少なくないのです。

 想像するに、操縦するパイロット自身も良い接地が出来たことが分かり、瞬時に曲がる誘導路を伝え、即座にレスポンスする息の合ったコックピット内のコミュニケーションも重要でしょう。これらがすべて噛み合った結果が、この「思ったより早い滑走路離脱」を生むといえるのかもしれません。

 着陸の上手い下手については、見方によって答えはそれぞれです。ただ、「滑走路を無駄なく使う着陸」は最高の技術を示す一つと言えるのではないでしょうか。

【了】

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Writer: タワーマン(元航空管制官)

元航空管制官。航空専門家。管制官時代は成田国際空港で業務に従事する。退職後は航空系ライター兼ゲーム実況YouTuberに。飛行機の知識ゼロから管制塔で奮闘して得た経験をもとに、「空の世界」をわかりやすく発信し続けている。新書「航空管制 知られざる最前線」(2024/5/28河出書房新社)

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