「胴体断面が四角いカックカク旅客機」なぜ存在? 円形断面より激レアな理由とは
「与圧装置」と胴体形状、どう関係?
先述の通り、長い歴史をもつ与圧客室ですが、旅客の居住性と引き換えに、機体へ負担がかかります。高度1万mを飛行しているなか、客室は2000m相当まで与圧しているとすれば、機内と機外で高さにして8000m相当の圧力の差が生じます。この大きな力を常に客室の壁は受け続けることになるのです。
そのため、この圧力差に胴体の構造で耐える必要があります。これを達成する胴体の構造が、円形の断面なのです。ちなみに、もし方形の胴体で与圧客室とした場合、構造的に必要な強度を確保するために補強が必要です。その結果、機体が重くなる、もしくは、パーツに重量を取られるぶん、ペイロード(運搬力)が減ってしまうことになります。
逆に言えば、セスナなどの軽飛行機や、高度数千メートルまでしか上昇しない「ドルニエ 228」「ショート 360」などでは、そもそも与圧装置を装備する必要がありません。与圧しなければ胴体に圧力差がかからないために、方形の断面でも問題がないということになります。また、製造コストや客室のキャパシティ面のほか、宅配便などの段ボールを搭載する貨物用の飛行機としても、方形の方が有利という側面も考えられるでしょう。
また、与圧装置のない機体の場合、窓の縁のアールが必要なく角ばっていたり、窓の構造自体もシンプルになっていたりすることが多いです。そのため、客室窓からの景色は、与圧装置のない機体の方がクリアでしょう。
ちなみにボーイング社のライバルメーカーであったダグラス社では、1947(昭和22)年に初飛行したレシプロ旅客機の傑作「DC-6」から与圧客室を採用しました。日本の国産ターボプロップ機YS-11では与圧装置を搭載しましたが、これは必要にかられてというよりは、旅客の乗り心地をよくするための目的だったそう。同機に携わっていた人に聞いたことがあるのですが、設計にあたり日本で最初の与圧対応の窓構造に苦心して、取り付けボルトの数が多いなど、窓の交換に苦労する旅客機だったそうです。
【了】
Writer: 種山雅夫(元航空科学博物館展示部長 学芸員)
成田空港隣の航空科学博物館元学芸員。日本初の「航空関係専門学芸員」として同館の開設準備を主導したほか、「アンリ・ファルマン複葉機」の制作も参加。同館の設立財団理事長が開講した日本大学 航空宇宙工学科卒で、航空ジャーナリスト協会の在籍歴もある。
記事中に(1938(昭和14)年)とありますが1938年は昭和13年です
ご指摘ありがとうございます。修正しました。