旧日本軍の“最強”水上機「瑞雲」偵察・爆撃・空中戦… なぜ機能をてんこ盛りに?
何でも屋として生まれるも戦局に恵まれず
こうして、旧日本海軍の期待を一身に背負った新型水上機は、1943(昭和18)年8月に「瑞雲」一一型として採用されます。性能は最高速度448km/h、航続距離2535km、20mm機銃2門、7.7mm(後に13mm)機銃1門、250kg爆弾1発搭載で、ほぼ要求を満たしていました。
「瑞雲」は、戦闘機並みの空戦フラップと前方20mm機銃、急降下爆撃機並みのダイブブレーキを備えていました。同年1月に採用された九九式艦上爆撃機二二型が、同じエンジンで最高速度427.8km/h、航続距離1050km、7.7mm機銃3門、250kg爆弾1発搭載であったことから、いうなれば一世代前の艦上爆撃機に勝る水上爆撃機だったと形容できるでしょう。
結局「瑞雲」は、艦上運用こそされなかったものの、フィリピンや沖縄方面で偵察に用いられたほか、夜間における対艦艇並びに対飛行場攻撃で戦果を上げています。
1945(昭和20)年には改良型として「瑞雲」一二型も試作されました。性能は不明ですが、換装したエンジンの馬力アップから推測すると、最高速度が30km/hほど向上したと考えられます。
本機に匹敵する艦載の水上機は、アメリカのSC-1「シーホーク」だけです。同機は単座なので最高速度が503.7km/hと速く、航続距離1006km、12.7mm機銃2門、147kg爆弾2発搭載と高性能でした。
ただし「シーホーク」の低空速度は「瑞雲」と大差ないと考えられます。また、水上戦闘機としての能力は要求されていないため、翼面荷重は156.9と「瑞雲」の135.7より高く、運動性で劣ることを考えると、総合的に対等と筆者(安藤昌季:乗りものライター)は推察します。
水上機は悪天候だと離着水できない問題などがあり、実際、最前線では2日に一度は運用が制限されるといったことがあったそうですが、広大な太平洋の島々に、いちいち滑走路を設営することの困難さを考えたとき、「瑞雲」は生まれるべくして生まれたともいえるのではないでしょうか。
【了】
Writer: 安藤昌季(乗りものライター)
ゲーム雑誌でゲームデザインをした経験を活かして、鉄道会社のキャラクター企画に携わるうちに、乗りものや歴史、ミリタリーの記事も書くようになった乗りものライター。著書『日本全国2万3997.8キロ イラストルポ乗り歩き』など、イラスト多めで、一般人にもわかりやすい乗りもの本が持ち味。
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