西九州新幹線で91年ぶり“鉄道復活” 嬉野温泉 昔の電車なぜ消えた? 背負った百年の悔い

西九州新幹線の距離短縮を実現した「泥岩層を貫くトンネル」

 現在では、かつての祐徳軌道のルートに沿う形で、同社の流れを汲む「祐徳自動車」がバス路線を運行しています。また長崎本線が経由していたかもしれない嬉野・長崎街道沿いには1942(昭和17)年にバス路線が開業。現在でもジェイアール九州バス嬉野線(武雄温泉駅~嬉野バスセンター~東彼杵駅)として営業を続けています。なおこれらの路線は、その多くが西九州新幹線の開業とともに、嬉野温泉駅や道の駅に乗り入れを開始します。

 そして西九州新幹線は、長崎本線になれなかった短絡ルートを全長5.7kmの「俵坂トンネル」で貫き、かつて長崎本線が果たせなかった嬉野~大村間のショートカットを果たしています。

Large 220908 ureshino 04

拡大画像

西九州新幹線の俵坂トンネル。坑口上部の施工からも、難工事ぶりがうかがえる(宮武和多哉撮影)。

 この周辺は変形しやすい泥岩層で形成され、新幹線のトンネルも「杵島層群」と呼ばれる泥岩層を貫いています。そのすぐ北を高速道路(長崎道)が通過していますが、少しトンネルを掘っただけで20cmも変位(ズレ)が生じるという環境に悩まされ、カーブが多く速度規制がかかる上に、供用から数年で大規模な補修を余儀なくされるなど、悩み多き区間です。全国的に見ても泥岩層を通過するトンネルは難工事を余儀なくされており(たとえば北越急行 鍋立山トンネルなど)、恐らく明治時代にこのルートが選択されたとしても、当時の土木技術では歯が立たなかったのではないでしょうか。

 地形・地質を克服し、91年越しに嬉野へ鉄道をもたらした西九州新幹線。まだ部分開業であるため時間短縮も限定的ですが、上部数十mにわたって念入りに治山を行っている俵坂トンネルを見に行くのも良いかもしれません。

【了】

【地図/写真】90年前にあった私鉄ルートと「幻の嬉野駅」

Writer: 宮武和多哉(旅行・乗り物ライター)

香川県出身。鉄道・バス・駅弁など観察対象は多岐にわたり、レンタサイクルなどの二次交通や徒歩で街をまわって交通事情を探る。路線バスで日本縦断経験あり、通算1600系統に乗車、駅弁は2000食強を実食。ご当地料理を家庭に取り入れる「再現料理人」としてテレビ番組で国民的アイドルに料理を提供したことも。著書「全国“オンリーワン”路線バスの旅」など。

最新記事

コメント

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。

4件のコメント

  1. 有田〜三河内〜早岐じゃないの?

  2. 九州新幹線も八女や山鹿周りだったら、新大牟田や新玉名よりは多くの利用を見込めていただろう。

  3. 祐徳軌道

  4. 情報お知らせいたします。