伝統的な航海術はもう不要なのか 帆船「日本丸」「海王丸」老朽化で岐路に 八方塞がりの今

世界では軍が帆船を運用するケースが多々

 たとえば、アメリカは準軍事組織である沿岸警備隊が「イーグル」(満載排水量1784トン)を保有し、士官教育に使用しています。ちなみに同船は第2次世界大戦後にドイツから戦争賠償として得たもので、竣工時の船名は「ホルスト・ヴェッセル」でした。

 ヨーロッパ諸国も軍が練習帆船を保有・運用しており、ドイツ海軍の「ゴルチ・フォック」(満載排水量1760トン)や、イタリア海軍の「アメリゴ・ヴェスプッチ」(満載排水量4146トン)、ポルトガル海軍の「サグレス」(満載排水量1755トン)などが例として挙げられます。

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並んで停泊する「海王丸」(前左)と「日本丸」(深水千翔撮影)。

 日本で見る機会が多いのは中南米の海軍が保有している練習帆船でしょう。たとえば2013(平成25)年9月にはコロンビア海軍の「グロリア」(排水量1300トン)が、2017(平成29)年9月にはメキシコ海軍の「クアウテモク」(排水量1800トン)が東京港に入港しました。2019年10月には天皇陛下の即位で祝賀ムードが漂う中、チリ海軍の「エスメラルダ」(満載排水量3754トン)が晴海ふ頭に接岸しています。

 ユニークな例としては民間の財団が保有しながら、船員教育やセーリング体験ツアー、クルージング、さらにはノルウェー海軍やオランダ海軍の士官教育などに使用されている「スターツロード・レムクル」があります。こちらは公的なバックアップも受けながら、クルーズ客の乗船料などから収入を得ることで、帆船を維持できるようにしています。

 練習帆船は天測航法のような伝統的な航海術を学びつつ、帆の展開作業などでチームワークを育む教育の場としての役割のほかに、遠洋航海で他国へ親善訪問した際に交流を行う「動く大使館」としての役割も持っています。そのため国の顔として、常に美しく保たれる必要があり、予算や人員が確保できる組織での運用が基本となっています。

 日本でも海技教育機構の練習船隊の見直しを契機に、帆船「日本丸」「海王丸」を例えば防衛省へ移管し、海上自衛隊の練習船として活用するなどといった新たな動きがあるかもしれません。

【了】

【外国海軍の帆船も】「日本丸」「海王丸」船内の様子ほか

Writer: 深水千翔(海事ライター)

1988年生まれ。大学卒業後、防衛専門紙を経て日本海事新聞社の記者として造船所や舶用メーカー、防衛関連の取材を担当。現在はフリーランスの記者として活動中。

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コメント

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1件のコメント

  1. 船乗りの端くれとしては、日本丸・海王丸にはノスタルジーを感じるところ。
    ただそのノスタルジーだけで保有するのは確かに今の時代にそぐわないのも理解している。
    ただ、初任幹部として参加する練習航海では天文航法も地文航法もやるし、南米の海軍士官は帆船で遠洋航海をやるんだよね。
    シーマンシップの涵養という意味で帆船は重要な教材であると思う。
    少なくとも恒常的に要員を確保できる海上自衛隊や海上保安庁、防大や海上保安大学が保有して海上要員の育成に使うべきだと思う。ロープワークやシーマンシップは現代においても基本中の基本、いろはのいなのだから。