“ミサイル射程圏内”グアムの最新防衛事情 楽園の島に迫る脅威は「全て撃ち落とす」

アメリカが進める脅威への対抗策 なぜ「全周」をカバーするのか

 この新しい防衛システムの特徴は、グアム島の全周360度をカバーでき、かつ分散配置で、さらに移動可能な複数の装備によって構成されるという点です。

 先述したように、中国は航空機や艦艇から発射可能な巡航ミサイルを運用しています。そのため、グアム島に対して幅広い方角から攻撃を行うことが可能です。さらに、中国や北朝鮮が開発を進める極超音速滑空兵器は、発射後にブースターから切り離された弾頭が弧を描いて飛翔する弾道ミサイルとは異なり、切り離された弾頭が飛翔途中に軌道を変更することが可能で、弾道ミサイルと異なりさまざまな方向から目標を攻撃することができます。そのため、こうした脅威に対応するために島の全周をカバーすることが求められるのです。

 また、日本でも配備が計画されていた地上配備型のミサイル迎撃システム「イージス・アショア」のような固定式の装備の場合、あらかじめその位置が特定されてしまうため、有事の際は敵から真っ先に破壊される可能性が高まります。そこで、移動式の装備とすることでその位置が特定されるのを防ぎ、生存性を高めようというわけです。

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2019年に行われたトマホーク巡航ミサイルの地上発射試験。グアムに配備されるけん引式地上発射装置の原型とされるもの。

 現在判明しているところでは、まず敵のミサイルを探知するセンサーとして、日本でも「イージス・システム搭載艦」に装備される予定の高性能レーダーである「SPY-7」が配備され、次いでミサイルを迎撃する装備としては、弾道ミサイルを迎撃する「SM-3」と、巡航ミサイルを迎撃する「SM-6」が、トラックけん引式の地上発射装置にそれぞれ収められて配備される予定です。

 そしてこれらの各種装備は、宇宙に配備されている衛星や洋上のイージス艦、早期警戒レーダーを含むその他の地上配備型センサーが捉えた情報が集約される指揮統制センターの下で運用される予定で、これにより迫る脅威に的確に対処することが可能となります。

 現在、日本においても弾道ミサイルや極超音速兵器への対応策に関する議論が加速していることを踏まえると、アメリカのグアム防衛の行方は要注目と言えるでしょう。

【了】

【画像】アメリカの「ミサイルを落とすミサイル」SM-6

Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)

軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。

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コメント

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1件のコメント

  1. グアムに導入するのは、IBCSというネットワークでさまざまな防空アセットをオールセンサー、オールシュータ化するもの。これまで様々なミサイルシステムは自分のレーダーを使ってしか探知、誘導できなかったが、このネットワークに加入したすべての加入者のレーダー情報を利用して探知、誘導が可能となる。例えばF35のレーダー情報でPAK3ミサイルの発射、誘導ができる。これにより今まで自分のレーダーの性能や死角に制約されていたミサイル発射が飛躍的に広範囲になり、結果として360度死角がなくなる、というものです。日本にもこんなのがあればなあ。。