東京の住宅街に眠る「幻の地下鉄車両」正体は大江戸線の試作車 開業までの歴史

様々な改造を経た「一つ目小僧」

 その小断面地下鉄の実用化に向け、試験用に造られたのがこの試作車「12-001」でした。狭いトンネルを走ることから空気抵抗や居住性を考慮し、先端を「く」の字にしたほか、側面形状も「曲がり妻」と呼ばれる「く」の字になっています。

 当初からワンマン運転を想定し、ドアの開く方向と同じ右側に運転台を置く設計になっています。ヘッドライトは中央に1基配置され、建設誌では「一つ目小僧風な斬新なスタイル」と評されています。

 試験当初は一般的な回転モーターが組み込まれていました。1986(昭和61)年に検車場や浅草線で走行試験を繰り返していましたが、リニアモーターの実用化にめどが立ったことから、さっそく改造でリニア車化。1988(昭和63)年に都営浅草線の馬込検車場の10番線にリアクションプレート(電磁力を生むアルミ板)を設置し、走行試験が行われます。台車はボルスタレス台車からリニア用の操舵式空気ばねに交換されています。

 あわせて、1989(平成元)年には「普通鉄道構造規則」が改正され、リニアモーター鉄道に関する基準類が追加されています。

 試験で収集されたデータなどに基づき、いよいよ本番用の1次車が製造されます。1990(平成2)年から先行開業区間となった練馬~光が丘間の本線で走行試験が開始。1991(平成3)年12月10日に開業を迎えたのです。

 日本におけるリニア地下鉄としては、前年に開業した大阪市営地下鉄鶴見緑地線(鶴見緑地~京橋)につづく2例目。これらの「新しい鉄道」は新時代・平成を象徴する存在として迎えられました。その後両者とも、都心へ順次延伸を果たしています。

 役目を終えた大江戸線試作車のうち、台車は近畿車輛へ、車体は現在の千早フラワー公園へ移設され、余生を送っています。

【了】

【大江戸線試作車「12-001」の車内と外観】

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