戦車じゃないよ「戦車駆逐車」ウクライナへ供与する仏製AMX-10RC 戦車より使える?
世界のトレンド「装輪戦闘車両」の運用に影響も
なお、ウクライナでは晩秋と春先に、降雨や雪解けの影響で「ラスプーチツァ」と呼ばれる「泥の海」が出現します。これは戦車など履帯(いわゆるキャタピラ)で走る装軌式車両でも踏破に苦労するほどのものであるため、装輪式のAMX-10RCでは、一層走行に苦労するのではと推察できます。
確かにこればかりは装輪式の弱点であり、だからこそ装軌式が誕生したともいえるのですが、この点はおそらく、AMX-10RC持ち前の良好な不整地踏破能力と、「ラスプーチツァ」の土地で長年培われてきたウクライナ軍なりの泥濘走破のノウハウなどで、いくぶんかはフォローできるのではないかと考えられます。
現在、ウクライナ軍は防戦だけでなく、一部地域ではロシア軍に対して攻勢に出ています。つまり、これまで述べたように威力偵察の機会や、いわゆる「火消し」と称される機動防御の機会が、防戦一辺倒だった昨年よりも増えていると考えられます。加えて、ロシアのMBTは運用上の失敗や構造上の問題などもあって案外、「打たれ弱い」ことも判明しています。
そのようななか、戦場においてフットワークが軽く(機動力が高く)、威力のあるパンチ(高い攻撃力)をくり出せる本車は、MBTより防御力に劣るとはいえ、さまざまな局面で有用だと筆者は考えます。
今後、ウクライナ軍に配備されたAMX-10RCがどのように活用されるのか、その戦い方次第では大口径砲装備の装輪戦闘車両の有用性を切り拓くという観点から、世界の軍関係者の注目を集めることもあるのではないでしょうか。そして場合によっては、日本の16式機動戦闘車の戦術にも影響を与えるかもしれません。
【了】
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。
「戦車並みの大口径砲を備えた装輪装甲車」
というキーワードを見てしまうと、第二次世界大戦時のSd.Kfz.234/2を思い浮かべてしまう。
当時も植民地(即ち熱帯:要するにアフリカ)用重装甲偵察車として開発されていたようですので、まあ、植民地に対するヨーロッパ諸国の思考がよく見えてますね。