鉄道も急遽大工事!? 東京に”川をつくります”の顛末 100年前の「荒川放水路」誕生

今から100年ほど前、東京に現在の荒川はありませんでした。人工的に流路を変更して誕生した「荒川放水路」ですが、すでに開業していた複数の鉄道路線をも横断することとなりました。

荒川を渡る路線がぜんぶ「橋」なワケ

 荒川放水路はその後も鉄道に影響を与えます。これだけの大河川を横断可能なトンネル技術が開発されるのは後年のことであり、万が一川底が抜けて水が流入するとトンネルを通じて都心が水没する恐れもあるため、戦後に建設された地下鉄東西線、千代田線、都営新宿線はいずれも地上に出て、放水路を橋梁で跨いでいます。

 唯一、2000年に開業した埼玉高速鉄道がシールドトンネルでくぐっていますが、地震で荒川が陥没して浸水した場合に備えて防水ゲートが設置されており、定期的に訓練も行われています。

 また初期に建設された橋梁にも問題が発生しました。実は荒川周辺は高度成長期の地下水汲み上げにより最大3m以上も地盤沈下しており、これに対応して堤防のかさ上げ工事が進められてきました。しかし、橋梁部分はかさ上げが難しいこともあり、そこだけ堤防が低い、いわば「穴」が開いている状況となっていました。その橋梁のかさ上げもいよいよ必要になってきたのです。

 対象となったのは1923(大正12)年に架橋した京成押上線と、放水路完成後の1931(昭和6)年に架橋した京成本線です。押上線は1992(平成4)年から2002(平成14)年にかけて架け替えを実施。周辺堤防より3.7mも低い京成本線荒川橋梁も2004(平成16)年から架け替え事業が動き出しましたが、設計や用地買収に時間を要し、長らく着工に至っていませんでした。

 その最中、2019年の「令和元年東日本台風(台風19号)」ではピーク時の水位が橋梁の桁下から1.2mの高さまで上昇し、決壊の一歩手前という状況に陥りました。

 これを受けて架け替え事業は加速していますが、それでも完成は2037(令和19)年の予定です。架け替え完了までは線路上に土のうを積んで対応する予定で、周辺自治体が水防訓練を行っています。

 しかし数百年に一度の大雨があれば荒川決壊は十分にあり得ることです。そうなれば地下鉄の出入口や通気口から浸水し、トンネルを伝って地下鉄各線が水没する危険性があるため、東京メトロなどは大規模水害対策を進めています。

 東日本台風では長野の千曲川が決壊し、北陸新幹線の車両基地が水没したことも記憶に新しいところです。同様に都心の一部車両基地も荒川浸水想定エリアにあるため、「浸水前にあらかじめ車両退避を行う」という対策が検討されています。

 河川は豊かさと恐ろしさという2つの顔を持っています。関東平野で生きる私たちは、これからもそんな荒川と向き合っていかなければならないのです。

【了】

【「荒川」が無かった頃の東京の姿】

Writer:

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx

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