“里帰り九五式軽戦車”で発見! 偽装した「秘密のスイッチ」の目的とは 最新アメリカ戦車にもつながるアイデア装備
現用アメリカ戦車にも見られる近似装備
ただ、このような戦車の車外から車内への連絡装置は日本人の発明というわけでもありません。元々は、第1次世界大戦で用いられた世界初の戦車、イギリスのMk.I菱形戦車で、すでに装備されていたものです。
しかし当時の装置は、長さ100m以上の電話線を後ろに向けて伸ばす、たとえるなら「戦車に載せた電話」といえる代物で、実質的には無線機の代わりでした。しかも、戦場でケーブルはしばしば切れてしまい役に立たなかったことから、その後はほとんど使用されなかったとか。
それでも第2次世界大戦になると現場での必要に迫られて、戦車の外部に取り付けた電話器で歩兵が車内と通話する装置が開発されます。
これは「グラント電話」または「戦車電話」「歩兵電話」と呼ばれ、太平洋戦争中盤の1943年、南太平洋のブーゲンビル諸島に展開したアメリカ軍のM4中戦車では、車体後部に取り付けた弾薬缶に収納した野戦電話を使って車内インターホン越しでの会話ができるまでになっています。またボルネオ島東岸(現インドネシア)に浮かぶタラカン島へ展開したオーストラリア軍の「マチルダII」戦車にも戦車電話が搭載され、次第に米英戦車の標準装備となりました。
この流れは戦後のアメリカ戦車やイギリス戦車にも引き継がれ、21世紀現在もアメリカのM1「エイブラムス」戦車の後部右側には、車外の兵士が車内の乗員と通話可能な戦車電話のボックスが設置されているのが確認できます。
一見すると似ても似つかない、M1「エイブラムス」戦車の戦車電話と、九五式軽戦車のブザースイッチですが、こうして見てみると、用途としては非常に近似するものだといえるのではないでしょうか。
こうした「発見」ができるのも、九五式軽戦車がほぼ完全に再生され、日本に戻ってきたからです。貴重な国産機械産業の歴史遺産として、「4335」号車が末永く大切に保存されることを切に願います。
【了】
Writer: 吉川和篤(軍事ライター/イラストレーター)
1964年、香川県生まれ。イタリアやドイツ、日本の兵器や戦史研究を行い、軍事雑誌や模型雑誌で連載を行う。イラストも描き、自著の表紙や挿絵も製作。著書に「九七式中戦車写真集~チハから新砲塔チハまで~」「第二次大戦のイタリア軍装写真集 」など。
コメント