「公道走れません」の電動キックボード野放し 新制度でも他人事貫く総務省 無保険車のカオスに?

「公道不可」モデルでも納税必要 税収を得る総務省が、いちばん動かない

 自賠責制度は、交通事故被害者救済を目的とした公的制度なので、未加入の車両が起こした事故でも、被害者に対して保険金が支払われます。例示した事故の保険金請求は明確ではありませんが、支払いを負担するのは、保険料を負担する他の車両の所有者であり、集められた保険金の運用益から支払われます。

 この被害者救済の考え方は、乗用車を含むすべての車両が対象です。支え合いの制度に無保険車がタダ乗りしていることは、電動キックボードが登場する前から問題になっています。

 ここで大事なことは、特小原付など新ジャンルのパーソナルモビリティの登場で運転条件の規制が緩和されても、ナンバープレートの交付や自賠責保険の加入は“所有者の義務”である、という点です。しかし、原付免許保持者しか電動キックボードに乗れない現状でも、これだけの状況です。ほとんどの国民が新しい交通ルールがよくわからない中で、誰がどのように制度の必要性を訴えていくのでしょうか。

 最初の一歩は、市区町村に車両の届出をしてナンバープレートの交付を受けるところから始まります。車両のナンバーを指定しないと自賠責保険にも加入できません。しかし、市区町村にガイドラインを示す立場にある総務省は、これまでほとんど何の対策も講じてきませんでした。

 例えば、今もECサイトを開くと「公道走行不可」「私有地専用」という表示で、電動キックボードが販売されていますが、地方税法では車両の使用目的に関わらず、「軽自動車の所有者は軽自動車税を支払う」義務があります。改正道交法が成立した後も、これだけ届出を怠っている車両が社会的な関心を集めているのに、なぜ販売者への注意喚起をしてこなかったのでしょうか。

 総務省で自動車税制を担当する自動車税制企画室はこう説明します。

「課税標識の番号は課税のためにある。課税標識を付けたからといって、事故が防止できるわけではないから、我々が街頭で呼び掛けるようなものではない。(総務省も)何もしていないわけではなく、ウェブサイトや販売店にチラシを置いてもらうことを、経済産業省が中心となって警察庁、金融庁、国土交通省の5省庁で考えて、7月1日をめどに発表する予定だ」

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大手ECサイトでの出品例。公道走行不可であることが商品ページに書かれている(矢印)。これも軽自動車税の課税対象。

 新しいパーソナルモビリティの問題は、チラシで注意を呼びかけようにも、販売店がないことです。また、無届、無保険を回避しようと努力するメーカーや販売店があったとしても、現状のように一方で、総務省が「公道走行不可」「私有地専用」の車両に無関心では、公正な競争が阻害されることになります。

 電動キックボードの登場で税収を得るのは、総務省が管轄する市区町村です。せっかくの税収、新旧の交通手段を円滑に発展させる方向に目も向けることはできないのでしょうか。

【了】
※一部修正しました(6月25日21時13分)。

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Writer: 中島みなみ(記者)

1963年生まれ。愛知県出身。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者を経て独立。行政からみた規制や交通問題を中心に執筆。著書に『実録 衝撃DVD!交通事故の瞬間―生死をわける“一瞬”』など。

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