中国に睨み アメリカ空母打撃群ベトナム寄港の“メッセージ”とは 戦争も今や昔
太平洋波高し、だからこそ日米越での戦略的互恵関係を
中国海軍の近代化とそれに伴う外洋進出の活発化。そしてロシアのウクライナ侵攻に伴う緊張の高止まりを受け、「自由で開かれたインド太平洋」の観点に基づき、直近1か月ほどのあいだでも日本周辺の海域でLSGE23(Large-Scale Global Exercise 2023:アメリカ主催大規模広域訓練23)の一環として実施された日米加共同訓練「ノーブル・レイブン23」や日米仏共同訓練「ノーブル・バッファロー」が立て続けに行われています。
これら訓練に「ロナルド・レーガン」や「いずも」も参加していたからこそ、そこから足を延ばす形でベトナムに相次いで寄港したのです。
つまりこの寄港は、ベトナムには「大国の中国を相手にしてもひとりぼっちじゃないよ」という親善と同国の外交姿勢を応援する意図とともに、対する中国には「小さい国を相手に無茶やればオレら周辺国は黙っちゃいないぜ」という抑止のメッセージ、それぞれの効果を及ぼそうという意味がこめられています。
今後も、中国の海軍力を背景にした強硬な海洋戦略は続くと思われます。また、北朝鮮に関しては海軍力こそたいしたことないものの、弾道ミサイルを始めとした諸問題が解決したわけではありません。一方、ロシアも太平洋方面の海軍戦力は、いまだ活発に活動を続けています。
このように、たとえるなら「太平洋波高し」の状況下、今回「ロナルド・レーガン」がアメリカの原子力空母として久しぶりにベトナムに寄港したというのは、両国の関係が過去の「戦争の記憶」を越えて、新たな段階に入ったからこそだと言えるのではないでしょうか。
ベトナム戦争終結からもうすぐ50年。アメリカもベトナムも、新時代を見据えて着実に動き始めているようです。
【了】
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。
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