念願のマイ機関車「運転して帰ってね」!? 鉄道車両"個人所有"の喜びと苦悩「歴史を預かる」自負とは
「今は一瞬、自分が預かっているだけ」
「お金と時間がかかる以外はメリットしかない」と述べるポールさんに、「誰でも買える仕組みは、歴史的な価値のある機関車が海外に流出するリスクではないか?」と問いかけてみました。意外にも、「答えは日本にある」と言います。
今年6月16日にとしまえん跡地に新しくオープンしたばかりの体験型施設、「ワーナー・ブラザース スタジオツアー東京 メイキング・オブ・ハリー・ポッター」でホグワーツ特急として常設展示されているのは、1929年にグレート・ウェスタン鉄道スウィンドン工場で製造された「GWSR4900型4920号機ダンブルトン・ホール」という、歴史的価値のある蒸気機関車なのです。
「ワーナー・ブラザースの手に渡って日本に送られたけど、またいつか、英国に金銭的余裕ができたら買い戻せば良いからね。スクラップになるより、日本でハリーポッターの蒸気機関車として大切にされている方がずっといい」と、ポールさんは前向きです。自身の愛機も、長い鉄道保存史の中で「今は一瞬、自分が預かっているだけ」と、少し寂しそうに、でも、誇らしげに微笑みます。
鉄道発祥の地、英国ならではの自信に満ちた保存活動は、歴史の一部を担っているという個々人の情熱と自覚と、自由を尊重する文化と社会に支えられていました。
【了】
Writer: 赤川薫(アーティスト・鉄道ジャーナリスト)
アーティストとして米CNN、英The Guardian、独Deutsche Welle、英BBC Radioなどで紹介・掲載される一方、鉄道ジャーナリストとして日本のみならず英国の鉄道雑誌にも執筆。欧州各国、特に英国の鉄道界に広い人脈を持つ。慶応義塾大学文学部卒業後、ロンドン大学SOAS修士号。
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