護衛艦「いずも」で合宿? アジア太平洋の各国が参加し“浮かぶ教室”で学ぶ 「力の支配はいけないこと」

「いずも」で一体何するの?

 日ASEAN乗艦協力プログラムは、インド太平洋地域に派遣されている海上自衛隊の艦艇にASEAN10か国の若手海軍士官などを招待して、艦内で情勢の認識や、国際法遵守の重要性に関する勉強会などを行うもの。日本と認識を共通化してもらい、ビエンチャン・ビジョンの実現を目指す目的で2017年から行われています。

 日太平洋島嶼国及び東ティモール乗艦協力プログラムは、日ASEAN乗艦協力プログラムの対象国をフィジーなどの太平洋諸国と東ティモールに拡大したものです。バヌアツなど軍隊を持たない国々からは沿岸警備隊や警察関係者を招待している点が日ASEAN乗艦協力プログラムとは異なっています。

 これまで行われた5回の日ASEAN乗艦プログラムのうち3回は「いずも」で開催されています。

 その理由、同艦が海上自衛隊最大の護衛艦で、全通甲板を備えた事実上の空母であるため、海外からの注目度が非常に大きいことや、定期的にインド太平洋方面の長期展開を行っているため、ASEAN諸国の要員を招待しやすいからでしょう。この種のプログラムの実行に最適な「多目的室」を備えている点も、「いずも」が選ばれた大きな理由の一つだと筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は思います。

 いずも型とひゅうが型の両ヘリコプター搭載護衛艦には、対潜作戦の要としての能力に加えて、島嶼防衛や大規模災害の救援などにおける洋上司令部としての機能も求められています。

 このため両ヘリコプター搭載護衛艦には陸海空三自衛隊によって編成される統合任務部隊の司令部を設置できるだけの余裕を持つ多目的室が設けられることとなりました。なお、この多目的室は天井に手術灯を配置するなど、有事の際には戦闘治療所として使用することができます。

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「いずも」に乗り込む各国の乗艦協力プログラム参加者(画像:防衛省)。

「いずも」の“教室”にあるものとは?

 筆者は2015年5月に幕張メッセで開催された海洋防衛セキュリティイベント「MAST ASIA 2015」で「いずも」の艦内ツアーに参加した際に多目的室にも足を踏み入れましたが、その壁に「いずも」と同艦の艦名の由来の一つである旧日本海軍の装甲巡洋艦「出雲」が描かれた絵画が飾られていたのが、強く印象に残っています。

 いずも型の多目的室では日ASEAN乗艦プログラムだけではなく、西太平洋地域の多国間海軍協力の枠組みである西太平洋海軍シンポジウムの次世代海軍士官短期交流プログラムの講義や、AESANの海軍士官を対象とした捜索救難セミナーなども開催されており、同盟国・友好国との関係強化と日本と海上自衛隊への理解を深めておらうための、「浮かぶ教室」として機能しているのです。

【了】

【え…】これが教室 いずも内部の「多目的室」です(写真)

Writer: 竹内 修(軍事ジャーナリスト)

軍事ジャーナリスト。海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書は「最先端未来兵器完全ファイル」、「軍用ドローン年鑑」、「全161か国 これが世界の陸軍力だ!」など。

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