瀬戸内海のフェリー「昼行」はなぜ難しい? 数ある航路は夜行ばかり 最高に楽しい船旅なのに

いた! いまの瀬戸内海のヌシ的な異形の船

 通常ダイヤなら真夜中の0時前後にくぐるため、橋の姿を観察することができませんが、今回は「瀬戸大橋」を構成する吊り橋の南北備讃瀬戸大橋だけでなく、トラス橋の与島橋、斜張橋の岩黒島橋、さらには瀬戸大橋線を走る列車まで船上から眺められました。また、瀬戸大橋周辺は坂出の石油タンクや丸亀の造船所といった工業施設の見どころも満載です。

 本島と午島の間を抜けてこれから塩飽諸島の多島美を楽しめると思った瞬間、空が一気に暗くなり大粒の雨が降ってきました。風も強くなったためデッキでの撮影を諦め船内へと入ります。「さんふらわあ くれない」は瀬戸内海で最大サイズのフェリーなだけあって、船内設備が非常に充実しているのがセールスポイント。各階の窓際には広いソファーが置かれているため、コーヒーを飲みながら船内で優雅に過ごすこともできます。

 窓から外の様子をうかがっていると、後ろにぴったりとくっついている船がいます。船名は「第六はる丸」(1万2404総トン)、大王海運のRORO船です。雨も収まって来たので写真に撮ろうとデッキに出て少し船首方向に目を向けると、旅館のようなデザインが特徴的な宿泊型客船「ガンツウ」(3013総トン)が、夕暮れ迫る瀬戸内海の海を静かに走っています。

「ガンツウ」は高級志向のクルーズ船として有名で、全室テラス付きのスイートで部屋の数はわずか19室。船内には檜の浴槽やサウナなどがあるそうです。瀬戸内海を楽しむために特化した超豪華かつ異形のクルーズ船は、観光資源としての瀬戸内海そのものの魅力を国内外に発信する象徴的な存在ともいえます。

 20時30分、ライトアップされた来島海峡大橋を通過。これで全ての本四架橋を見ることができました。アトリウムで行われた二胡とピアノの演奏と共に夜は更けていき、いつの間にか消灯時間となります。広々とした展望大浴場も堪能し、部屋で寝ている間に船は別府観光港に到着しました。

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別府港では「さんふらわあ くれない」にタンクローリーから直接LNG燃料を補給(深水千翔撮影)。

 朝起きるとLNG燃料を積んだタンクローリーが船の真下に次々と到着するところでした。目の前に広がるのは温泉地・別府の景色。朝食をたっぷり食べ、下船に備えて荷物を整理しながら20時間の船旅を終えての感想を考えると、まだ乗っていたい、もっと瀬戸内海の景色を見たいという感情が沸いてきました。

※一部修正しました(9月17日16時51分)
【了】

【え…】これが瀬戸内海のヌシ「走る和風旅館」船です(写真)

Writer: 深水千翔(海事ライター)

1988年生まれ。大学卒業後、防衛専門紙を経て日本海事新聞社の記者として造船所や舶用メーカー、防衛関連の取材を担当。現在はフリーランスの記者として活動中。

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コメント

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1件のコメント

  1. 大変良い点に着目した内容でした。
    当方にて、当日の航海を香川県から撮影したYouTubeを以下のタイトルで公開しています。
    「さんふらわあ くれない 昼の瀬戸内海カジュアルクルーズ 備讃瀬戸東航路から北航路へ西航 坂出市乃生岬付近からの眺望」

    昼便は時々運行するから価値があって、それなりの乗船客が見込めるのでしょうね。
    一点気づいたのですが、2枚目の写真「瀬戸大橋。ちょうどJR四国の最新特急車2700系が通過した(深水千翔撮影)」は、2700系では無く、8600系電車の特急しおかぜです。
    以上