バス運転手が集まらないのは「不人気だから」なのか? 人手不足の本当の理由 見えづらくしている業界のマイナス思考

バス会社だから「住宅ローンを想定以上に借りられた」

 たとえば大手私鉄系の事業者は、バス事業だけで2~3000人の従業員、年間数百億円の売上を誇る大きな会社です。親会社はみな上場企業で、経営は極めて安定しています。労働組合が労働環境をしっかりチェックしており、たとえば有給休暇消化率をみると多くが95%前後です。

 実はこれらの会社でも、1990年代後半から労働条件の切り下げが行われました。また、途中で長めの勤務開放を含む独特の勤務体系が導入され長時間拘束が増えたこと、運転面に加え接客面も会社による管理が厳しくなったこと、そして何より人の生命を預かる仕事であることを考えれば、処遇は十分ではないかもしれません。

 それでも平均年収は全産業男子平均を上回っているとみられ、福利厚生もかなり充実しています。冒頭で紹介した就職イベント「どらなびEXPO」の「現役運転手のトークセッション」で筆者が司会を務めた際、大手私鉄系事業者の若手運転手が「会社に社会的信用があり、銀行から住宅ローンを想定以上の金額まで借りることができた」と言っていたのが印象的です。大事故を起こしたような零細事業者とは環境が全く異なります。

 11月、京王バスが、自己都合で退職した運転手が復職した場合、「退職時の待遇で処遇する」という制度を始めました。コロナ禍で離職した元運転手らを想定した制度ですが、このような事業者では、個人差はあるものの勤続年数が伸びるにつれ給与が上がる傾向だということがわかります。同社は運賃の値上げを実施済みで、それを原資に運転手の待遇を改善することも決めています。

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バス運転手の数は、コロナ前は増加傾向にあった(国土交通省のデータをもとに高速バスマーケティング研究所作成)。

 次に、地方部で主に路線バスを運行する事業者は、バスを中核に小売業や観光産業など幅広く経営する会社がほとんどです。昭和の高度成長期に比べると路線バスの輸送人員は大きく減少しましたが、幾度も法改正が行われ、赤字だが重要だと地域が認めた路線は国や自治体による補助金で維持されることになりました。企業として経営は厳しいものの、働く側からは、公的な補助によって守られる安定した職場という見方もできます。

【これで「不人気」と言うか?】バスドライバー採用イベントの様子(写真)

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