地味? 旧海軍の空母「蒼龍」実はスゴい艦だった! 「艦橋どっちがいいの問題」に終止符 日本空母の完成型に
空母「飛龍」の準同型艦である「蒼龍」は、やや小ぶりな船体ではるものの、後の日本海軍のスタンダードな空母の形を作った艦のひとつになりました。何がよかったのでしょうか。
艦橋や舵などが後の空母に活かされる
今年の干支である「辰(龍)」がついた旧日本海軍艦で、最も有名なのは、おそらく空母「飛龍」でしょう。同艦の準同型艦で同じく中型空母に分類される「蒼龍」も忘れ難い存在で、実は後の日本海軍のスタンダードな空母の形を作った艦でもありました。
太平洋戦争初期に運用された空母といえば、知名度としては「赤城」「加賀」が双璧をなします。「飛龍」は、ミッドウェー海戦で「赤城」「加賀」「蒼龍」が爆撃を受け戦闘不能になった後も戦い続け反撃の一矢を報いた逸話で知名度は高め。その3隻に比べると地味な印象の「蒼龍」ですが、空母の完成度としては「蒼龍」が、この4隻の中では一番高いとも言われています。
まず、準同型艦の「飛龍」との外見上の大きな違いは艦橋の位置です。「蒼龍」の艦橋は右舷に、「飛龍」は左舷に設けられています。「蒼龍」の方が先に建造された空母ではありましたが、建造当時の1930年代中盤は、まだ艦橋が右舷か左舷どちらがいいか結論が出ておらず、後に右舷の方がいいという結論になります。
当時の艦載機は基本的にレシプロエンジンを搭載した単発機となっており、プロペラはコックピットから見て右回転しています。そのため左方向にトルクがかかるため、シビアな操作が要求される飛行甲板への着艦時には、左側の視野に障害物が入るとかなり降りにくい状態となってしまいます。そのため、艦橋が左舷にある「飛龍」に比べると、「蒼龍」の方が着艦し易いとパイロットの評判もよかったようです。
また、 後に日本空母の標準装備となる艦尾の着艦標識、滑走静止装置が建造当初から設置されたのは「蒼龍」が初です。しかも、船速は34.9ノット(約65km/h)と日本海軍の空母では最速を誇っていました。舵の効きも「飛龍」の半平行舵よりも「蒼龍」の吊下式二枚舵の方がよく、旋回半径を小さくできたようです。
さらに、搭載機数も常用54機と、大型空母である「赤城」の66機や「加賀」の72機よりは少ないですが、ロンドン海軍軍縮条約を破棄した後に建造されたためやや大きい「飛龍」は57機と、ほぼ差がなく、効率よく艦載機を搭載できる格納庫がありました。
その構造は、後に日本海軍中型量産空母のスタンダードになるべく建造された雲龍型航空母艦でも活かされます。船体形状こそ「飛龍」がベースにされましたが、それまでの実戦での運用実績などで、艦橋は「蒼龍」と同じ右舷側で、舵の形式も「蒼龍」と同じ吊下式二枚舵となっています。
そのように「蒼龍」と「飛龍」のイイトコ取りで完成した雲龍型でしたが、一番艦の「雲龍」ですら竣工した日が1944年8月6日と日本の敗色が濃厚となってから就役したため、搭載する航空機はゼロ。その後に就役した姉妹艦の「天城」「葛城」も含め、空母としての出撃はなく、完成された日本製中型空母としての性能は発揮できないまま終わります。
【了】
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