「東京メトロの株式上場」なぜここまで遅れた!? 民営化から「速やかに」のはずが 決定へのいきさつとは

で、株式上場でこれから何が変わっていくの?

 売却同意の背景として、今年に入って日経平均株価が3万6000円を超えるなど、株式市場が空前の活況を迎えています。株式売却を引き延ばす理由はなく、早いうちに株を売却したい国の意向が反映されたと思われます。

 ただ前述の審議会は、新線建設を確実なものにするため「国と東京都が当面株式の1/2を保有することが適切」とも答申しており、相変わらず完全民営化の見通しは立っていません。

 では東京メトロが上場すると何が変化するのでしょうか。多くの国、都市の地下鉄は公営または半官半民で運営されており、株式上場を果たした地下鉄事業者は香港MRTを運営する「香港鉄路」くらいでしょう。

 同社は2000(平成12)年に香港証券取引所に上場しましたが、現在も香港政府が株式の過半数を保有しており、完全民営化はしていません。ただ民営企業として不動産など関連事業の推進、ロンドンやストックホルム、北京といった他都市の鉄道運営参入など、「積極的な事業拡大」が目につきます。

 東京メトロも近年、ハノイ、ホーチミン、マニラの地下鉄建設に協力するなど海外事業の展開に注力していますが、実際は「国際協力」の範疇を越えていません。また民営化以降、拡大してきたはずの関連事業も十分な存在感を発揮できていません。東京も遠からず人口減少社会が到来する中、国内需要の開拓は限界があります。上場を迎える東京メトロは今後、どのような事業戦略を取っていくのか問われることになるでしょう。

【了】

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Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx

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