「アンモニア」こそ、明るい未来の新燃料なのか 世界初の輸送船建造プロジェクト 日本浮上のカギに?
やっぱりLNGの“次”!
もう一つの側面として、世界に先駆けてアンモニア燃料アンモニア輸送船を実用化することで、日本の海事産業を強化するという目的があげられます。
資源や食料の輸出入の99%を海上輸送に頼っている日本にとって、海運会社や造船所、舶用メーカーなどは必要不可欠な存在です。しかし近年は中国や韓国の大規模な造船所に押され、かつては50%以上を誇っていた新造船の世界シェアも17%まで落ち込んでいるのが現状です。発電所の燃料などに使われているLNG(液化天然ガス)の輸送船に至っては、日本で建造が行われなくなってしまいました。国産技術で建造された日本船籍の船でエネルギー資源を輸送することは経済安全保障の観点からも必要とされています。
NSYの前田明徳社長はアンモニア燃料アンモニア輸送船を先行して建造し、就航実績を作ることこそが「造船所として差別化やシェア確保の上で最も重要」との認識を示しており、代替燃料船の分野で国内約50%、海外約10%の建造シェア獲得を目指していくとしています。
ただ、アンモニアは人体への毒性の強さが課題です。曽我社長は「特にアンモニアの毒性の克服に関しては、ユーザーの立場から直接設計に関与し、いち早く安全運航に関わる十分な備え、知見を獲得してきたと自負している」と話します。このため、アンモニア燃料船では配管の二重化など、乗組員を守る設計をしっかり行った上で、運航中はアンモニア燃料エンジンが置かれている機関室へは基本的に立ち入らないようにするとのこと。運航に携わる船会社が開発段階から関わっていることは、今後の普及やルール作りを進めていく上でアドバンテージとなります。
何よりアンモニアを燃料として使用する船舶に関する国際ルールは、IMOで検討が進んでいるものの、まだ整備されていません。これをチャンスと捉え、国際的に先行するアンモニア燃料アンモニア輸送船の開発プロジェクトで得られた知見を基に日本主導の国際ルール化に繋げていく計画です。
今回のアンモニア燃料アンモニア輸送船は、2025年にフルスケールエンジンの組み立て、最終テストを済ませ、2026年に実船を建造。そして2027年に実証航海へと進めていく予定です。
曽我社長は「次に考えているのは同じくアンモニア燃料アンモニア輸送船。もう一つは自動車船だ。2028年までLNG焚き自動車船を整備することになっているが、どこかでアンモニア燃料自動車船をパイオニア的な位置づけとして建造していきたい。その先はケープサイズやパナマックスサイズのドライバルカー(ばら積み船)などに移っていくのではないか」と述べ、より多くの船種でアンモニア燃料エンジンを採用していく考えを示していました。
【了】
Writer: 深水千翔(海事ライター)
1988年生まれ。大学卒業後、防衛専門紙を経て日本海事新聞社の記者として造船所や舶用メーカー、防衛関連の取材を担当。現在はフリーランスの記者として活動中。
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