ウリは爆速! 米海軍が発注した異形の病院船「大きい・多数収容」をあえて捨てたワケ
現用病院船は大きいからこその欠点も
2024年2月現在、アメリカ海軍は病院船として「マーシー」と「コンフォート」の2隻を運用しています。ただ、両船はベセスダ級のように最初から病院船として建造されたのではなく、1970年代に竣工したサン・クレメンテ級石油タンカーを改造して誕生しました。
そのため船体は全長272m、全幅32mと非常に大きく、ベッド数も約1000床と多くの患者を収容することができます。このサイズを活かして、新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年には「マーシー」がロサンゼルスで、「コンフォート」がニューヨークで、それぞれ医療支援に就いています。
一方で船体が大きく喫水も深いため接岸できる岸壁は限られます。速力も17.5ノット(約32.4km/h)と、軍艦としては低速で汎用性に欠ける部分が多くありました。加えて船齢も40年を超えており、老朽化が指摘されるような状況です。
そもそも、マーシー級病院船が純粋な軍事作戦に従事したのは1990年代初頭に起きた湾岸戦争と、2000年代初頭に起きたイラク戦争のときぐらいで、基本的には一般市民を助ける目的で活用されることの方が多くなっています。スマトラ島沖地震やハイチ地震といった海外で発生した災害に対する医療・人道支援、アメリカ本土で猛威を振るったハリケーン・カトリーナ被害での救援などを行ってきました。
その一環で、マーシー級はアジア太平洋地域諸国の住民に対する医療活動や文化交流などを目的とした国際防衛協力「パシフィック・パートナーシップ」にもたびたび派遣されており、日本の自衛隊を始めとして各国政府や軍、国際機関、NGO(非政府組織)と交流を深めたり、共同訓練を行ったりしています。
こうした点から新たな病院船には、災害発生時にいち早く駆け付けられる高速性と、設備が整っていない港にも接岸が可能な船型、そして船内で完結できる高度な医療施設が求められていました。スピアヘッド級EPFも最新型となるフライトIIの「コーディ」から外科手術が可能な医療設備を船内に備えるようになっています。
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