「寝台列車はロマン」だけ? 伝統の列車が風前の灯 “夜行復活ブーム”から取り残された英国らしい苦境
英国でも苦戦する寝台列車
ところが生き残ったカレドニアンスリーパーも、順風満帆ではありません。最近では乗客数がコロナ禍前の状況まで戻ってきていたものの、インフレなどの影響でコストが膨らみ、2023年1月までの7年間で6900万ポンド(約133億円)の赤字を計上(日刊紙スコッツマンによる)。そのためスコットランド政府は運行会社との契約を一方的に切り上げて、国有化に踏み切りました。
「国有化して乗客数の伸びを後押ししたい」とスコットランド政府は説明しますが、「旅のロマン」だけでは顧客満足度を高められていないようです。
寝台列車は、寝ている間に目的地に着いて朝から行動できるという利点がありますが、カレドニアンスリーパーは遅延が多発しているのです。2022年度の定刻率は68.1%。これではビジネスには使えません。特にビジネス利用が多いと思われるスコットランド首都エジンバラ~ロンドン間の路線を2022年12月から2023年1月の間に利用した乗客のうち、「また利用する」と答えた人は過半数を割りました(カレドニアンスリーパー自社アンケートによる)。
乗客からの苦情件数は、2022年度は2018年度の倍以上に増加しています(英国・鉄道規制庁による)。「列車の振動が激しくて寝られない」という苦情も多いようです。カレドニアンスリーパーの自社アンケートによると、「よく眠れた」と回答した人は6割にとどまっています。
2019年に導入した新型車両で、車体の振動を低減させるパーツに不具合がありました。加えて、鉄道発祥の地の英国ならではの事情もあります。鉄道関係者が私(赤川)の取材に語ったところによると、鉄道インフラがどこも古く、線路を騙し騙し使っている状況だそう。これも振動の一因になっている可能性があります。
寝不足の上に、朝一番の仕事は「遅刻します」と関係各位に謝りの連絡を入れる作業になったという体験談も散見され、「カレドニアンスリーパーを出張に使うのはもうやめる」という衝撃的な記事も掲載されました(スコットランドの地域紙インヴァネス クーリエ)。
長期的にみると逆風はさらに強まりそうです。欧州連合(EU)では2021年から2027年までの期間だけでも258億ユーロ(約4.7兆円)の巨額予算を、鉄道を含む輸送分野のインフラ整備に振り分ける予定ですが、EUを離脱した英国はその一員になり損ねたわけです。現在建設中の、ロンドンとイングランド北部を結ぶ高速鉄道「HS2(ハイスピード2)」も当初より路線を大幅に短縮しました。表向きの理由は「インフレによる費用高騰」ですが、アテにしていたEUの資金が得られなくなったことを示す公文書が残っています。老朽化した英国の鉄道インフラ整備も、EU資金は頼れません。
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