自衛隊が挑んだ“大規模リアル射撃訓練”の顛末 戦闘機も出動し「海のギャング」一網打尽 地域の風物詩だった時代
陸海空の自衛隊が合同で射撃訓練を実施!
要請を受けた陸上自衛隊は、トドの駆除を目的とした射撃訓練を実施することになりました。普段、トドは海岸から見える位置にある岩礁地帯、通称「トド岩」に集まっていることが多く、そこを目標に陸上自衛隊の37mm機関砲や40mm機関砲を撃ち込もうというのです。
さらに、航空自衛隊は上空から、F-86F「セイバー」戦闘機による機銃掃射を行います。さらに海上自衛隊も魚雷艇を出し、機関銃を載せて準備しました。こうして、陸海空3自衛隊による大規模実弾演習がトド相手に行われることになったのでした。なお、当日は訓練の様子を一目見ようと多くの見物人が沿岸に押し掛けたそうです。
実際に実弾訓練が始まると、初弾を撃ち込んだ際の爆発音で、トドのほとんどが逃げてしまったといいます。それでも、参加した各部隊は、その後も弾薬を撃ち込み続け、その威力は、トド岩の形が大きく変わるほどの銃弾の雨を降らせました。
トドは非常に耳のいい動物ですので、大きな発砲音に反応し、「この場所は危険だ」と認識させることができれば十分だったのです。実際に散り散りに逃げたトドたちは、しばらくはトド岩には戻ってこなかったといいますから、トドを標的にせず、岩を撃つだけでも大いに効果はあったといわれています。
こうして、トド退治に成功した自衛隊。地元漁協は喜び、その後数年は、トドが多く集まるようになる春の時期にトド退治演習が行われるようになりました。そしてこのトド退治は、「春の風物詩」のような扱いになり、演習が行われる日には、地元の住人の多くが、海岸に見物に集まるのが通例になっていったようです。
しかし、その後北海道に生息していたトドは環境の変化などにより激減。絶滅が危惧される生物として、保護されることになり、トド退治の演習は幕を閉じました。
現在では、徐々に数を回復させつつあるトドですが、もう、自衛隊による駆除が行われることはないでしょう。当時40mm機関砲が設置された新冠町の海岸には、現在、海馬供養記念碑が建てられています。
【了】
Writer: 凪破真名(歴史ライター・編集)
なぎはまな。歴史は古代から近現代まで広く深く。2019年現在はフリー編集者として、某雑誌の軍事部門で編集・ライティングの日々。趣味は自衛隊の基地・駐屯地めぐりとアナログゲーム。
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