「北陸最大の都市」なのに“路線バスだけ”で半世紀 地下鉄・LRT・BRT…議論どうなった? 中心街が遠い金沢
コロナ禍で方向性変更 提言書をよく読むと…
ただ、その後に訪れたコロナ禍は議論の方向性を変えました。提言書を受けて2021年に設置された「新しい交通システム導入検討委員会」は、中長期的な機種選定の方向性、基本方針の取りまとめとあわせて、危機的状況を迎えた公共交通の持続可能性を確保するための短期的施策を検討することになったのです
その後の委員会は連節バスの導入や、既存バスのダイヤ、経路案内、バス停・バスレーンの改善、キャッシュレス化や運賃制度の見直し、パーク&ライドの拡充などを、2028(令和10)年頃を目途に導入・実施していく方針をまとめます。
2022年9月に公表された提言書は、まずは第1段階としてバスのサービス水準向上や、北陸鉄道石川線の需要拡大策など短期的施策を進め、整備完了後おおむね5年を目途に成果を検証し、第2段階としてLRTまたはBRTの導入を検討するとしています。石川線のバス専用道転換(BRT化)やLRT乗り入れも選択肢に含めるようです。
これは一見すると足踏み、先送りですが、提言書をよく読むと必ずしもそうとは言えません。LRTにせよBRTにせよ、新しい交通システムの導入が目的ではなく、課題解決の手段にすぎません。
提言書は第2段階の移行条件として、BRTからLRTへの段階的整備を行った海外事例を紹介しつつ、第1段階と第2段階の連続性を強調しています。実際、バスの定時性や輸送力の改善は部分的なBRT化とも言えます。その結果、バスの利用が増加すればバス専用レーンが終日設定され、さらに輸送量が増えれば、それが線路になるのです。
半世紀に及ぶ金沢市の議論は、都心に交通システムを導入する難しさとともに、地道な取り組みの積み重ねこそが問題解決の近道であることを教えているように思えます。
【了】
Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx
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