じつに73年ぶりの新造船「1年間は地獄見るつもり」 日本の新たな「捕鯨」船出 クジラ肉は身近になるのか?

鯨肉の価格アップで黒字 でも「1年間は地獄」

 所社長は「私が2020年に社長に就任した時のキロ単価は800円だった。これが3年間で1200円くらいまで上がっている。同じ数量で価格が上がるということは、需要曲線の情報にシフトしているということになる」と話し、プロモーション活動の成果を強調。確かに鯨肉販売単価の上昇や製造原価の低減などで、2022年度に共同船舶は黒字化を達成したものの、継続的に商業捕鯨を行っていくためには需要を生み出していく必要があります。

 これに関しては「一気に何千トンも(鯨肉を)出すと市場が混乱してしまう。次の目標として学校給食や高校生など若い人たちをターゲットにクジラを食べてもらおうという取り組みをしている。若い人たちはクジラが安いものだと思っていない。大きくなって稼いだら美味しいクジラを食べようという仕組みを作っていく」と所社長は話していました。

「関鯨丸」は新時代の母船式捕鯨を担うため、画期的な設計が取り入れられています。これまで屋外で実施していたクジラの解体作業を、天候に左右されず、室内で行えるようにするとともに、保冷設備として20フィートサイズのリーファーコンテナを最大40個、800トン分積載できるようにしました。

 解剖スペースで解体・裁割されたクジラをさらに部位ごとに切り分け加工し、冷凍パンに肉詰めを行う「パン立てスペース」では作業負荷を軽減するため定量カッターや原料の真空包装を行う自動脱気包装機といった機械が並んでいます。「パン立て」された鯨肉は急速冷凍室で冷凍された後、グレース工程と包装を経て段ボールに梱包され保冷設備へと送られます。

 こうしたクジラを解体した後のカット作業からパン立て、急速冷凍、箱詰め、リーファーコンテナまで全ての搬送がコンベヤーで省力化されており、これにより労働環境と衛生環境を大きく改善しました。船室もプライバシーを確保するため全て個室になっています。

 甲板上には探鯨用大型高性能ドローン(無人機)のデッキを設置しており、複数のドローンを扇状に飛ばしてクジラの位置を把握できるようにします。将来的にはAI(人工知能)を用いてクジラを見分けるシステムを備えることも計画中です。

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林芳正官房長官(左)とあいさつする共同船舶の所社長(深水千翔撮影)。

 所社長は「クジラを捕ることに我々は誇りを持っている。『関鯨丸』は何もかも新しい船であり、トラブルの発生は必須。1年間地獄を見て、その先の良い世界を見ることを合言葉に、捕鯨へ行ってくる」と語っていました。「関鯨丸」はまさに今後の商業捕鯨の方向性を決める期待の新星として船出しました。

【了】

【スゴイ大きさ!】これが船内の「クジラを解体する場所」です(写真)

Writer: 深水千翔(海事ライター)

1988年生まれ。大学卒業後、防衛専門紙を経て日本海事新聞社の記者として造船所や舶用メーカー、防衛関連の取材を担当。現在はフリーランスの記者として活動中。

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コメント

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1件のコメント

  1. あークジラ肉食いたい。
    竜田揚げが。
    ショウガ醤油で刺身もok。