これぞ「石破列車」!? 鉄道を“動く病院”や“巨大な救急車”に 「病院列車」構想の現実味
鉄道で「命を救う」という新しいコンセプトの構想が現実味を帯びてきています。「動く病院」にも、「巨大な救急車」にもなり得ます。鉄道の防災利用に、石破新首相も注目しているようです。
DMATが未連携だった「鉄道」 巨大な救急車的な使いかたも
災害は新たに発生した傷病者だけでなく、透析などを受けている慢性疾患を負う交通弱者も襲います。被災により能力が限られた医療機関に多数の傷病者が押し寄せると、状況はさらに逼迫します。資材や設備が限られる被災地での手当より、被災していない地域に患者を搬送した方が多くの命を救えるのですが、大量搬送が課題でした。
DMATはこれまで、警察、自衛隊、消防、航空会社などと傷病者搬送の協力体制を作り上げましたが、鉄道の利用は意識されておらず、莫大なニーズに対して輸送規模が追いつきませんでした。鉄道であれば、多数の傷病者をケアしながら、被災地から安全な地域へと広域に長距離搬送できるので、さながら巨大な救急車のような利用も考えられます。
神戸の訓練ではDMAT隊4隊、模擬患者50名が参加しました。模擬患者は被災想定された病院でトリアージを受けたのち、御崎公園駅にて次々と列車へ運ばれました。そこでは、搬送中も医師や看護師が車両を行き来でき、複数の患者をケアできるメリットも見出されました。
また、患者の搬送とは別の用途も想定されています。今までは医療チームが救急車を長時間運転して被災地に乗り込む事が常でしたが、鉄道コンテナなどで医療機材を運べれば、医療チームは飛行機や新幹線を使ってより早く被災地に入る事も可能になります。軍隊のロジスティクス(兵站)と同様に、災害時の輸送効率化は、より多くの命を救うカギになるのです。
実はスーパーチームな「Rail-DiMeC研究会」
Rail-DiMeC研究会は、世界各地で災害医療に携わり数多くの命を救って来た強者医師、医学と工学を結ぶ研究者、医療機器会社、鉄道技術者、鉄道会社、通運会社など各分野のプロフェッショナルが集うスーパーチームです。
メンバーの兵庫県災害医療センター 島津和久医学博士は「鉄道の災害医療への活用が、より多くの命を救えることを期待しています」と語ります。会を主導する早稲田大学医療レギュラトリーサイエンス研究所 梅津光生工学/医学博士は「医学と工学の連携により、鉄道車内での医療行為が、今までの救急車やドクターヘリとはどこが違うのかを明確にします」と意気込みました。
元JR勤務の技術者で早稲田大学招聘研究員の小峰輝男氏は、「鉄道の活用に当たり実現に向けた課題を一つ一つ乗り越えていきます」と語ります。
このような新しいプロジェクトには数々の困難が現れますが、最後はこれを乗り越える鉄道会社の使命感、社会貢献への意欲、鉄道魂が問われます。JR貨物 経営企画部の石井智さんは「貨物鉄道輸送の役割を発揮し、被災地支援の取組みを進めていきます」としました。
折しも新首相となった石破 茂氏も、鉄道の防災利用に触れています。鉄道が多くの命を守る日は、そう遠くなくやって来そうです。
Writer: 山田和昭(日本鉄道マーケティング代表、元若桜鉄道社長)
1987年早大理工卒。若桜鉄道の公募社長として経営再建に取り組んだほか、近江鉄道の上下分離の推進、由利高原鉄道、定期航路 津エアポートラインに携わる。現在、日本鉄道マーケティング代表として鉄道の再生支援・講演・執筆、物流改革等を行う。
コメント