新幹線を悩ませる財源問題 なぜ東海道は5年で完成できたのか

新幹線建設中止の危機を救った「策」

 東海道新幹線は当初1948億円の工費が見込まれ、そのほとんどを国鉄の自己資金と債権を含む借入金でまかなうことになりました。しかし日本の経済成長に伴い物価や人件費が上昇したほか、東京オリンピック前で工事の需要が高まり用地代や資材費が高騰。1948億円という工費では到底、完成が不可能な状況になっていきます。

 そしてこのことが国会などで大きな問題となり、工事の遅れどころか、新幹線の建設中止すら想定される深刻な状況に陥ってしまいました。

 この問題で、時の国鉄総裁で「新幹線の父」と呼ばれる十河信二は奔走します。その十河に「世界銀行から資金を借りたらどうだ」とアドバイスをする人物がいました。そうすれば資金を低利で調達できるうえ、新幹線の完成が保証される、と。世界銀行から資金を借りた場合、政府にその計画を完遂させる責任が生じるのです。

 このアドバイスをしたのは当時の大蔵大臣、佐藤栄作でした。その後、十河や国鉄技師長の島秀雄らが尽力し、世界銀行からの借款に成功。それによって新幹線の建設中止は事実上消えました。しかし、先述の理由で工費はどんどん増加。最終的には当初の倍、約3800億円に達してしまいます。

 この大幅な工費超過などに対して責任を取る形で、新幹線の実現を主導し奮闘してきた十河信二はその開業前年である1963(昭和38)年5月、国鉄総裁の座から去らざるを得ませんでした。

 1964年10月1日、ついに東海道新幹線が開業し、東京駅19番ホームを6時ちょうどに発車する「ひかり1号」で出発式が行われました。しかしそこに「新幹線の父」、十河信二が招かれることはありませんでした。

 新幹線開業50周年を迎える2014年10月1日、東京駅19番ホームを6時ちょうどに発車する「のぞみ1号」の1号車付近で出発式が行われます。この式典には、十河も参加できるかもしれません。十河は1981年に亡くなりましたが、その功績を記念した肖像入りの記念碑が東京駅19番ホームの新大阪側、つまり1号車付近にあるのです。

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東京駅19番ホームにある十河信二の記念碑。座右の銘「一花開天下春」の文字が刻まれている。

 高い技術と安全性で「日本」を象徴するひとつになった新幹線。その50周年を、十河はどんな気持ちで見送るのでしょうか。

【了】

Writer: 恵 知仁(鉄道ライター)

鉄道を中心に、飛行機や船といった「乗りもの」全般やその旅について、取材や記事制作、写真撮影、書籍執筆などを手がける。日本の鉄道はJR線、私鉄線ともすべて乗車済み(完乗)。2級小型船舶免許所持。鉄道ライター/乗りものライター。

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