台風到来前の大規模運休 前例なき決断の理由とは?

台風で殉職した国鉄職員の「美談」と「教訓」

 1953(昭和28)年9月25日、愛知県を走る国鉄(当時)の武豊線で、台風によってある悲劇が起きてしまいました。

 この日、台風13号の影響で高潮が発生。武豊線の東成岩~武豊間で線路が流されてしまいます。しかしこのとき、列車がその区間に向かって走行中でした。

 武豊駅の駅員であった高橋煕は異常を知らせるため、発煙筒を持って列車へ向かって走り出します。列車はそれに気づいて非常停止。大惨事は防がれました。

 しかし列車へ危機を知らせに行った駅員、高橋煕の姿がありません。翌日、線路脇で殉職しているのが発見されました。

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愛知県の武豊駅前に建立されている「高橋煕君之像」。

 彼の行動は「国鉄職員の鑑」として大きな賛辞を集め、武豊駅前には銅像が建立されています。

 この出来事は「美談」ともいえますが、大きな「教訓」でもあります。当時の状況と現在を単純に比較するのは難しいですけれども、あらかじめ対策を講じ、適切な対応をしていれば、命が失われることはなかったかもしれません。

 公共性が高い鉄道は、乗客からダイヤ通りに安定して運転されることが求められます。しかし天災発生時などは、それが厳しいこともあります。難しい決断に迫られる鉄道会社ですが、武豊線の例のように何かが起きてからでは遅いのは確かです。今回、大規模な計画運休を決めたJR西日本の対応は英断といえるのかもしれません。台風の到来が祝日であったのは、乗客にとってもJR西日本にとっても不幸中の幸いでしょうか。

【了】

Writer: 恵 知仁(鉄道ライター)

鉄道を中心に、飛行機や船といった「乗りもの」全般やその旅について、取材や記事制作、写真撮影、書籍執筆などを手がける。日本の鉄道はJR線、私鉄線ともすべて乗車済み(完乗)。2級小型船舶免許所持。鉄道ライター/乗りものライター。

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