A380が「空の旅」を変える 超大型機にこだわるエミレーツ航空の大胆戦略
「手段」と「目的」をひっくり返すA380
「どんなフライトでも、乗客は心の底からくつろぎたいと思っています」と、ドバイのエミレーツ航空本社で会った関係者は私に言いました。「それに応えるためには、豪華で快適なスペースを提供できる大型機の投入が欠かせません」
その言葉にこそ、彼らのクリアな戦略が端的に表われています。エミレーツ航空のA380を利用した人は累計ですでに3200万人を超え、そのゴージャスな機内設備とハイレベルなサービスを求めるリピーターは後を絶ちません。同社の運航便はドバイを本拠地に現在、世界84カ国・147都市に就航。そのうちA380での運航路線は33都市にまで拡大しました。
エミレーツ航空は羽田線の開設を機に、成田からドバイへの路線で運航していたA380を一回り小さいボーイング777に切り替えました。それを残念に思っている日本人ファンは決して少なくありませんが、シンガポール航空やタイ国際航空は現在も成田へA380での運航を続けています。
A380について、私は開発当初から「空の旅を根底から変えてしまう機材になるだろう」と言い続けてきました。最初に旅の目的地を決め、そこに行くために必要なエアラインを選ぶ。それがこれまでの一般的な旅のプランニング方法でしたが、A380が就航して以降は変化が見られます。「この飛行機に乗ろう」という思いがまず先にきて、その就航地のなかから旅のプランを決める──そんなスタイルが出現しました。そして他のエアラインも、旅人たちをそこまで魅了するスペースやサービスを提供するA380を意識して、自分たちなりに新しい快適さ・ゴージャスさを追求する努力を始めるはず。「A380が空の旅を根底から変える」と私が言ってきたのも、エアライン業界の底上げを促進するという意味まで含んでのことで、そこまで大きな可能性を秘めた機種はほかにありません。
【了】
Writer: 秋本俊二
作家/航空ジャーナリスト。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。新聞・雑誌、Web媒体などにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオの解説者としても活動。『航空大革命』(角川oneテーマ21新書)など著書多数。
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