機械の身体、その人生は楽しい? 『銀河鉄道999』実現の可能性は 空想学会が科学的に分析

重力がなければ食堂車もトイレも不可能

 3人目は小林智之さん。元JAXA所属で、現在は名古屋工業大学にてシニア・リサーチ・アドミニストレータとのこと。国際宇宙ステーションに関わった経験から、銀河鉄道の列車サービスの可能性を探ります。

 小林さんは人類の宇宙進出の歴史を振り返り、宇宙ツーリズム時代が到来していること、また現在に至るまでの宇宙滞在技術を紹介しました。そのなかで、宇宙が人体に与える影響とその対策が、銀河鉄道の列車サービスに関わるだろうと予測します。

 宇宙長期滞在について、もっとも重要な課題は「排泄」だそうです。宇宙空間には重力がないため、身体が排泄物を下へと送っていく機能が弱くなります。また、身体の外に出た排泄物の処理も問題です。アポロ計画、ミールに搭載された便器などの仕組みが紹介されました。

 重力がなければ、食堂車に座って食事ができません。ましてや料理もできません。『銀河鉄道999』に登場した合成ラーメンも厚切りステーキも調理できません。小林さんは「食事は宇宙飛行士にとって、栄養補給、ストレスの軽減、気分をリフレッシュしてパフォーマンスを向上する、という目的がある」と語り、いままでに28品目の日本食を開発したそうです。

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『銀河鉄道999』から実現できそうなアイデアを探る(2015年7月7日、杉山淳一撮影)。

 ここまでのお話で、宇宙旅行の最大の問題点は「重力がない」に尽きると感じました。筆者は「重力を作ってしまう技術は開発されないのですか」と質問しましたが、解決方法は遠心力で、SF映画に出てくるような、大きなドーナツ型で回転する宇宙ステーションが想定されるそうです。なんだか、かなり大がかりで、維持も大変そうです。現在の宇宙開発は、重力の問題を認識しつつも、その問題を回避する技術の開発を優先しているように感じました。

 銀河鉄道の列車で重力を発生させるなら、列車は常にらせん状に走り、重力を確保しつつ前進するという仕組みが必要です。その場合、車窓の星たちは常にぐるぐる回っていますから、かなり酔いそうです。

『銀河鉄道999』はSFではなくファンタジーですから、物語の成立に都合の良い科学や原理がたくさんあります。同じものを実現できません。しかし、現実とファンタジーを結びつける遊びのような議論のなかで、もしかしたら宇宙旅行の実現に向けた画期的なアイデアや発明が生まれるかもしれません。頭の体操として、空想学会に参加してみても良いかもしれませんね。

【了】

Writer: 杉山淳一(鉄道ライター)

乗り鉄。書き鉄。ゲーム鉄。某出版社でゲーム雑誌の広告営業職を経て独立。PCカタログ制作、PC関連雑誌デスクを経験したのち、ネットメディアなどで鉄道関係のニュース、コラムを執筆。国内の鉄道路線踏破率は93パーセント。著書に『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。日本全国列車旅、達人のとっておき33選』(幻冬舎刊)など。

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