夢の「駅直結物件」どうすれば叶うのか? 地下通路とビルをつなぐ“マイ出入口”の造り方

地下鉄駅の通路の一部は、民間のビルとつながっています。「駅直結」をうたって資産価値を上げるために、ビルを地下通路に接続させるためには、どうすればよいのでしょうか。

ビルだけが得する出入口は造れない

 話を「請願口」に戻しましょう。道路下に設置された地下通路は、公共的な目的で道路管理者(国道なら国、都道なら都)から「借りた(占用許可)」空間に設置した施設です。そのためビル事業者が費用を負担したからといって、ビル事業者だけが利益を受ける地下通路は造れません。

 東京メトロが発行した『帝都高速度交通営団 工務部のあゆみ』には、営団は近接ビル事業者からの要望に対し、「当該駅の既設出入口が利便性に欠けており、要望のビル出入口を設置することが公共の利便に寄与する」ことを可否の判断基準としていたと記されています。この方針は基本的に今も変わっていないと思われます。

「公共の利便」は、「地下鉄コンコースからビル用地内を通過して地上に出る地下鉄専用出入口を確保し、その途中からビル内に連絡できる構造」とすることで確保するとあり、受益の代償として事務経費を含め工事にかかるすべての費用をビル側に請求しました。

 なお、請願口は地下鉄の壁に穴を開けてビルの地下と接続するものから、新宿三丁目駅E8出入口(高島屋新宿店地下1階に直結)のように、駅通路そのものをビル付近まで伸ばす大規模なものまでさまざまで、負担すべき費用もまちまちです。

 請願口は「売り手市場」だったと言えますが、1980年代後半以降は関係性が変わってきます。バブル景気でビルの建設が活発になり、請願口が増加の一途をたどった一方、道路管理者や警察は路上の視認性向上を理由に、歩道上への出入口設置を認めず、既存出入口についても撤去を求めるようになります。

 しかし地価が高騰する中、都心一等地の用地取得は困難です。2000年代に入るとバリアフリー化でエレベーター設置が求められたため、ビルとの連携強化が必要になります。現在では地下鉄出入口はビルと一体化しているのが当たり前の光景になりました。

 一方、他社財産である請願口の存在は新たな問題となっています。東京メトロは荒川決壊などの大規模浸水対策として、出入口、非常口、換気口、坑口など、地上と地下を結ぶさまざまな「穴」をふさいでいますが、出入口全体の3分の1を占める請願口の半分で対策が必要なのです。

 止水板のかさ上げから、階段の密閉まで想定される浸水ごとに必要な対策はさまざまですが、いずれにせよ多額の費用がかかります。一か所でも穴があれば破綻するのが浸水対策ですから、近接ビル事業者任せとするわけにもいかないのです。地下鉄とまちをつなぐ請願口の変遷は、時代を反映していると言えるのかもしれません。

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Writer:

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx

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