「これモンキー? なに“カワサキ!?”」 漢のバイクと正反対な伝説のレジャーバイクとは オーナー「今そんな高いの?」
硬派なバイクで知られるカワサキも、かつてはホンダ「モンキー」のようなレジャーバイクをラインアップしていました。今じゃ考えられない“ヤワなバイク”でしたが、不思議な魅力があるとか。長年保有しているオーナーに聞きました
それはないだろ!な価格
試しにコヨーテの価格を聞いたら、なんと100万円だったそう。
「『それはないだろ』と思いました。確かに希少性が高いバイクではあるんですけど、灯火類の部品もなく公道を走れないこと、そしてモンキーのように後に脈々と続くストーリーがあるわけでもないコヨーテが100万円とは。もちろん買いませんでした」(玉田さん)
他方、今改めて見てもかなりカッコ良いコヨーテは、2020年に登場したアメリカの電動アシスト自転車・Super73のモチーフにされるなど色褪せない魅力があるのも事実。やはり「かわいいレジャーバイク」といえども、どこか硬派な印象を持つのもまたカワサキならでは、と言って良いかもしれません。
カワサキ版モンキー=伝説のレジャーバイクKV75
コヨーテの翌年、1970年には、MT1(後のKV75)が登場します。これもアメリカカワサキ主導で開発されたモデルで、当初はアメリカ市場限定のバイク。灯火類などが搭載されない一方、モンキー同様の折りたたみハンドル式でした。
同時代のモンキーは50ccでしたが、「MT1(後のKV75)」は少し排気量の多い75ccモデル。2ストロークアメリカ市場では1971~1974年までの初代、1975年までの2代目が存在しました。そして、1976年には3代目が登場し、このモデルから「KV75」として日本国内仕様の販売スタート。玉田さんが所有するモデルも日本国内仕様のモデルです。
「最初はかわいいなと思って入手したKV75ですが、実際に乗ってみるとかなり独特で、実用的には支障があるバイクでもありました(笑)」
ずっと昔に6Vのモンキーを乗っていた時期もあるという玉田さん。「だからよくわかるんですが、この時代のモンキーもKV75も、クラッチレバーのない遠心クラッチのモデルなんですよ。モンキーなどのカブ系の遠心クラッチはスムーズにシフトチェンジができるのですが、KV75はクラッチが切れる機構がなく、ダイレクトにギヤが入ってしまうため乗りづらいんです」とのこと。
「カワサキは大好きですけど、このKV75というバイクはひどいと。アメリカでは親が子どもに乗せるケースも多かったようですが、とてもじゃないですけど、『子どもに乗せるバイクではないだろう』と思いました(笑)」
「全日本KV75ミーティング」に来た台数は…
KV75をけっこうボロカスに言う玉田さんでしたが、それも愛憎一体としたもの。今でも大切にメンテナンスし続け、長い所有歴の間には、KV75のオーナーズミーティングを実施した経験もあるといいます。
「30年くらい前の話ですが、雑誌の読者欄に個人が有志で『同じバイクのオーナーとミーティングする』告知を出すことがよくありました。︎KV75を乗っている僕の友達が『全日本KV75ミーティング』というものを主催し、僕も誘われて参加しました」
ミーティングの場所は東京のお台場。「必ずKV75の自走で来なくてはいけない」という縛りも設けたそうです。「年末の寒い時期でしたけど、どれだけのKV75が集まるのかなと楽しみにしていました」と話します。
「しかし、ミーティング当日にお台場に来たのは僕と友人と、雑誌を見て来てくれたもう1台だけ。白い息を吐きながら、3人だけでお互いのKV75を前に缶コーヒーを飲んで、そのままお別れして(笑)。あれは悲しかったですけど、でもそこで来てくれた方はすごく良い人で、後に友人にKV75の情報を仕入れたりすると、手紙を書いてくれたりしたそうですよ」
え、いまそんなに高いの!?
ところで、1970年代前半、各バイクメーカーからレジャーバイクが続々と登場しましたが、中半から後半にかけては、レジャーバイクブームが徐々に下火になっていきます。
人気の衰えが見え始めた頃に、日本国内で発売されたKV75は正直「時期が遅かった」印象は拭えませんでした。また、当時の日本の交通法規では50ccはヘルメットを着用せずに乗れ、その手軽さが人気でしたが、75ccはヘルメットが必要でした。このことも災いし、さほどヒットには至らずやがて姿を消しました。
それでも、いまなお中古車市場ではKV75がわずかながらに販売されています。その相場は個体の状態にもよりますが、1台約50~60万円。希少性があるとはいえ、それでもこの価格で堂々と販売されているということは、やはり一定のファンを持つバイクだからのようにも思います。
「今、KV75が50~60万円もするんですか? そんな高値で買う人がいるなら僕もちょっと考えちゃいますね(笑)。でも、そう思っても何故だか手放せないのがKV75の不思議なところで、今は外装などを外して保管しています。他のメーカーのレジャーバイク同様に、『これはこれ』の個性があると思います」(玉田さん)
Writer: 松田義人(ライター・編集者)
1971年、東京都生まれ。編集プロダクション・deco代表。バイク、クルマ、ガジェット、保護犬猫、グルメなど幅広いジャンルで複数のWEBメディアに寄稿中。また、台湾に関する著書、連載複数あり。好きな乗りものはスタイリッシュ系よりも、どこかちょっと足りないような、おもちゃのようなチープ感のあるもの。
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