「これを八甲田と思わないで」 予想外だった天候 それでも自衛隊が演習に勤しむワケ

日本屈指の豪雪を誇る青森県の八甲田山系。陸上自衛隊第5普通科連隊は毎年、積雪寒冷地における戦技向上などを目的に、冬季に八甲田演習を実施しています。その様子を、スキーを履いて密着取材しました。

積雪寒冷地における訓練の意義

 78式雪上車の操縦席にはハンドルがなく、2本の操向レバーとマニュアルミッションで操縦します。幅広の履帯(いわゆるキャタピラ)にゴムタイヤを組み合わせているものの、サスペンションがあまり効かないため、速度を出すと乗り心地は良くありません。ただ、自衛隊車両だけあって整備性は優れており、冬の終わりにしっかりメンテナンスしておけば、夏場放置していても、冬にはすぐ使えるという頑丈なクルマでもあります。

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軽雪上車(左)と78式雪上車。後者は「大雪)とも呼ばれる。冬季限定のレア装備だ(2025年1月、月刊PANZER編集部撮影)

 軽雪上車は市販のスノーモービルをベースに自衛隊の専用装備を取り付けたもので、目立つところではスコップや無線機、予備燃料、スキー板などの携行品を約40kg搭載できるキャリアラックが後部に追加されています。1~2名しか乗車できませんが、雪上では圧倒的な機動性を発揮します。操縦はオートバイとよく似ていますが、また違った技量が必要なのだとか。

 水陸両用車から雪上車やスキーに至るまで、あらゆる事態に対処できる準備をしておくことは重要です。現代の日本を取り巻く安全保障環境は、相変わらず厳しいものがあります。日本の領土は狭いイメージですが、排他的経済水域(EEZ)を含めると世界第6位の広さとなり、地勢は多種多様です。八甲田遭難事件は、日露戦争直前の緊迫した安全保障環境が背景にありました。雪上車はもちろん、スキーもない時代に冬の八甲田に挑むには覚悟があったはずです。

「天に見放されるかもしれない」と、不安と緊張で臨んだ八甲田演習でしたが、無風の「好天」に恵まれました。「これを八甲田と思わないでください」と、地元第9師団の広報官はやや悔しそうでした。

 とはいえ、「天」を甘く見れば必ずしっぺ返しがあります。それを実感したのは、後日襲ってきた体中の痛み。久しぶりに履いたスキーによる筋肉痛、それこそがしっぺ返しだったようです。

【ハンドルない!?】これが78式雪上車の車内です(写真)

Writer:

1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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