ホンダF1の「怖~いハナシ」創成期の不幸な事故と黄金期の黒星にまつわる「奇妙な縁」後編

1988年シーズンのF1は、マクラーレン・ホンダの全戦全勝が確実視されていたものの、その夢は不運なトラブルによって潰えます。その原因となったのは20年前のフランスGPで事故死したのと同じ名を持つドライバーでした。

チームホンダが分裂に RA301とRA302の並行開発

 たしかに自然空冷エンジンは水冷エンジンに比べて軽量・コンパクトに仕上がります。しかし、冷却効率や公害対策の観点から四輪用としては、すでに技術的な限界が見えていました。ましてや排気量3リッター級のレーシングエンジンを自然空冷方式で作るなど狂気の沙汰としか言いようがありません。

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ホンダを一代で大企業へと成長させた叩き上げの技術者であり、当時社長の座にあった本田宗一郎。オートバイメーカーから自動車製造への進出と数多くの功績を残す一方、自然吸気の空冷エンジンに固執し、市販車開発でも若手エンジニアと対立した(画像:パブリック・ドメイン)。

しかし、だからこそ斬新な技術で世間をアッと言わせることを好んだ本田が異常な執着を見せたのでしょう。また、自分を差し置いてローラとの協業を推進していた中村のやり方を快く思っていなかったことも判断に影響を与えました。いずれにしても、熟成を進めれば優勝を狙えるマシンを差し置き、ホンダは社長のエゴで前代未聞の自然空冷エンジンのF1マシン開発に力を注ぐことにしたのです。

 こうして本田が強引に完成させたマシンは「RA302」の名称が与えられ、テストされました。しかし、冷却の問題からまともに走らず、失敗は明らかでした。

 一方、ホンダ本社の支援を充分に受けられない中村のRA301は熟成不足によりデビュー戦から苦戦していました。そのようななか、日本の本社から第7戦フランスGPに欠陥を抱えたままのRA302を出走させるよう、命令が下ります。

これに対し、中村は安全の確保ができないとして出走を拒否します。すると、エントリーが締め切られていたにもかかわらず、本田は運営に対して政治工作を弄して出走を強行。ドライバーとなったのは、F1の経験がほとんどない40歳のフランス人レーサー、ジョー・シュレッサーでした。

 ルーアン・サーキットに到着してから顛末を知った中村はこれに激怒。「RA302の責任だけは持てない」としてチームを二分します。これによりRA301は引き続き中村、RA302は日本から来た技術者が担当することになりました。出走前、シュレッサーのことが気がかりだった中村は「すぐにオーバーヒートするので回転数を押さえて走るように」と彼にアドバイスしました。するとシュレッサーは「無理はしない。ホンダでF1に参戦できるだけで嬉しい」と答えたそうです。

【本田宗一郎のこだわり!】自然吸気の空冷エンジンF1マシンが走る姿(写真)

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