戦車砲なぜ「ツルツル」がいい? 西側の戦車は全て“先祖返り”に「最後の砦」英国が採用した理由とは

戦車の砲身は、ライフリング(溝)が刻まれていない滑腔砲です。この形式は19世紀以前のトレンドでしたが、溝付きの普及により一度は廃れ、また主流になったのです。

ソ連が最初に採用! 西側では西ドイツ製がスタンダードに

 この問題は最初に解決したのは西側諸国ではなく、ソビエト連邦でした。同国陸軍は1961年、世界に先駆けてAPFSDSをT-62戦車に採用しました。

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先端が尖っているAPFSDS。発射後は弾体と装弾筒が分離する(画像:ラインメタル)。

 同戦車ではAPFSDSの威力を損なわずに使用するため、戦車砲の「55口径115mm U-5TS」を、内部がツルツルな滑腔砲としました。また、滑腔砲には砲弾を強力にしやすいという利点のほか、ライフルのように砲弾が砲身内で回転して砲を傷めないため、ライフル砲身よりも長持ちという利点がありました。

 このT-62の情報を受けた西側諸国は、それまで標準だったイギリス製の105mm戦車砲「ロイヤル・オードナンス L7」というライフル砲を更新する必要性に迫られます。

 当初これは、1964年からアメリカと西ドイツが新しい戦車と戦車砲を共同開発するという方針で進みますが、後に性能要求の不一致から断念。ただ、このとき西ドイツ側が提案した120mm砲滑腔砲は、同国のラインメタルで研究が続けられ、後にラインメタル製の「120mm L44」となり、1979年に配備を開始した西ドイツの「レオパルト2」に装備されます。

 この砲は、APFSDSのほかに、歩兵用の対戦車ロケット砲弾にも見られる成形炸薬弾(多目的対戦車榴弾)なども使用できます。さらに、戦車が動いている状態での射撃「行進間射撃」でも120mmという大口径でありながら高い命中精度を誇っています。

 同時期に誕生したアメリカ軍のM1「エイブラムス」戦車は、当初105mm戦車砲を使用していましたが、火力強化版のM1A1には「120mm L44」をライセンス生産した「M256」を採用。その後、西側陣営のほとんどの国で「120mm L44」はライセンス生産されることなり、西側戦車砲のスタンダードとなります。日本の陸上自衛隊も同様で、90式戦車の砲に同砲のライセンス生産品を採用しました。さらに、陸上自衛隊の10式戦車やフランスの「ルクレール」などに搭載されている戦車砲も、国産ではありますが同砲を参考にしたものです。

 これらの砲は製造国こそ違うものの、NATO規格の砲弾とは互換性があります。そのため、複数の国が共同作戦を取る場合にも砲弾が共有できかるという利点もあります。また、射撃システムに関しても共有が可能です。「チャレンジャー」シリーズはこれまで砲身の種類が異なるため、射撃システムの共有に関して特に問題を抱えていましたが、「チャレンジャー3」はほかの西側戦車と同じ砲身になるため、性能向上に関して大きなメリットがあります。

 なお、滑腔砲が戦車に採用された当初の弱点として、装弾筒と砲身に隙間があると弾道が安定しないというものがありました。しかし、この問題も技術発展により、砲身の隙間がほぼない状態で発射できるようになっています。イギリス軍の「チャレンジャー3」が配備されれば西側主要国の主力戦車は全て滑腔砲となるため、画期的な技術革新でもない限りは滑腔砲の天下は続きそうです。

【あ、ツルツルだ…】これが「チャレンジャー3」の砲身内部です(写真)

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