トランプ大統領「新型エアフォースワン」に激怒!! でも計画キャンセルはムリなワケ

アメリカのトランプ大統領がSNSで新たなエアフォースワンの開発遅延に怒っています。ただ、なぜ開発が遅延しているのでしょうか。また開発中止や別機種での再開発は可能なのでしょうか。

運用開始がどんなに遅延しても米政府の負担は変わらないワケ

 エアフォースワンは普通のVIP輸送機ではなく、核攻撃を含むあらゆる事態においても国家指導部が機能し続けるための「空飛ぶホワイトハウス」としての役割を果たさなければなりません。そのため、鉄壁の通信システム、強力な電子戦装備、さらには空中給油能力など、軍用機さながらの特殊装備が膨大に施されます。こうした改修は、仮にボーイング747-8ベースをやめたとしても結局必要で、仮に機種を変えたとしたらその作業は最初からやり直しになってしまうでしょう。

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次期「エアフォースワン」VC-25Bの完成予想CG。現在開発中であるがスケジュール遅延と予算超過に悩まされえている(画像:アメリカ空軍)。

 これらを鑑みると、トランプ大統領が主張する「中古機の調達」や「計画のキャンセル」は現実的ではありません。エアフォースワンの搭載システムは通常の民間機とは根本的に異なる設計思想のもとで作られており、単純に中古機を改修することで代替できるものではないからです。

 ボーイングの新型エアフォースワン計画は、技術的な複雑さだけではなく、回避不可能な天災だった「コロナ・パンデミック」の影響も大きく受けてスケジュールが遅延。結果、コストの高騰を招きました。トランプ大統領の怒りとキャンセル発言が注目を集めているものの、実際には計画を完全に撤回するのは非現実的であるといえるでしょう。

 いずれにせよアメリカ政府の負担額は40億ドル固定であり、超過分はボーイング社自身が賄わなくてはなりません。ボーイングにとっては開発の遅延を受けたコスト増加をどのように抑えるかが今後の焦点となります。

 エアフォースワンは移動手段というだけではなくアメリカの国家安全保障を支える象徴的な存在です。新型機の完成が遅れようとも、最終的には導入されることが確実視されています。この計画が示すのは、国家を支える膨大かつ強固なシステムを1機の航空機に詰め込むことがいかに大変であるかを示す好例といえるでしょう。

 また、結果論ながらそれだけ「複雑怪奇」なプロジェクトを、ボーイングが見積もりを誤り安価で受けすぎてしまったという点、それもまた事実なのかもしれません。

【トランプ大統領が提案】幻で終わった“星条旗カラー”エアフォースワン(画像)

Writer:

1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。

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