虚しさ漂う「クイーンビートル」の最後 JR九州希望の新造船が5年で“争奪戦”になるまで 「良い船だと今でも思う」
「浸水隠し」などが明るみに出て建造5年で売却となったJR九州高速船の「クイーンビートル」。最後は争奪戦の様相となり、韓国の船社に決まりました。あまりに強い逆風のなかでデビューした“半生”を振り返ります。
ジェットフォイルも売らざるを得ず
「ジェットフォイルでは走れない海の状況でも、『クイーンビートル』は走ることができる。特に日韓航路はジェットフォイルだと日没になると走ることができなかったが、『クイーンビートル』は真っ暗になっても走れるため柔軟なダイヤを組むことができた」(関係者)

しかし新型コロナウイルスの感染拡大に伴って日韓航路の運航が休止になると、デビューを控えた「クイーンビートル」に暗雲が立ち込めます。2018年に起工した同船がロールアウトしたのはコロナ禍の始まりの2020年2月。資機材の供給不足や技術者の移動が制限されたことで、進水や各種試験も延期を繰り返し、JRへ引き渡されたのは2020年9月でした。
この時点で収入源が途絶えたJR九州高速船は会社存続の危機に陥っており、ジェットフォイル2隻を売却。「クイーンビートル」は日韓航路への復帰を前提に沿岸輸送特許を得たうえで国内の遊覧運航を行ったものの、2022年からはカボタージュ規制(国内海上輸送の自国籍船限定)による日本船籍への転籍を余儀なくされました。
JR九州高速船は2022年11月に博多―釜山航路で「クイーンビートル」の運航を再開したものの、船体のクラックを原因とした浸水が立て続けに発生し、再び運航停止に追い込まれます。2023年6月には「クラックが原因の浸水も発生し、臨時検査の受検義務が生じていたにも関わらず、国土交通省へ報告せず未受検のまま航行させた」として、「輸送の安全の確保に関する命令」を受けました。
さらに2024年8月に国土交通省が実施した監査では、「2024年2月に発生した船体への浸水が、国土交通省へ未報告だった」ことに加えて、そのことを「航海日誌やメンテナンスログ等に記載せず、別途浸水に関する管理簿を作成」したうえ、浸水量が急激に増加した同年5月28日に「浸水警報センサーの位置をずらした」ことが発覚します。この時、「クイーンビートル」の船首先端の右舷側には約 110 cmものクラックが、縦に発生していました。
これにより同社は国土交通大臣から早急に改善措置を執るべきとした「輸送の安全の確保に関する命令」に加えて、全国初となる安全統括管理者と運航管理者の解任命令を受けます。
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