そういや、どうなった?「ロシア唯一の空母」まったく姿を見せないワケ「隠れたワケじゃないんです」本当か

ロシア唯一の空母「アドミラル・クズネツォフ」が全く動いていません。北洋艦隊の基地に留め置かれたままの状態が続いています。ただ、それにはロシアが抱える問題が大きく影を落としているようです。

艦載機の発着艦訓練をする予定は?

 そうしたなか、2024年、ついにドック作業を終えた「アドミラル・クズネツォフ」は、艦体を海上に戻しました。しかし、それは名目上の「進水」であり、出港の報は2025年5月現在に至るまでありません。ムルマンスクの北方艦隊基地に留め置かれたまま、試験航海どころかエンジンの本格稼働すら確認されていないのです。

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ロシア海軍の航空母艦「アドミラル・クズネツォフ」ドックを出て改修はほぼ完了したと考えられる。しかし復帰予定は大幅に遅延している(画像:ロシア国防省)。

 ロシア国防省は、公式には本艦の運用を再開する方針を堅持しているものの、その実態は「現役のふりをした非稼働艦」に他ならないと言えるでしょう。皮肉にも、この艦が果たしている最大の役割は、国際社会に対して「ロシアは空母を持っている」という象徴的なメッセージを発信し続けている、その1点しかありません。

 合理的に考えれば、「アドミラル・クズネツォフ」はすでに退役していてもおかしくない状況です。完全な現役復帰には多額の費用がかかり、代替艦の建造など夢のまた夢で、ロシアがいかに強権国家であれ、その経済的現実から逃れることはできないからです。

 それでもなお、この空母が形式的に「現役」を維持しているのは、ロシアという国家の軍事的メンツ、さらには核戦力と並ぶ「大国の証」としての海軍航空戦力の存在感が無視できないからと言えます。プーチン政権が依然として「大国の幻想」を保持しようとする限り、この艦の存在は国内向けのプロパガンダ装置として機能し続けるでしょう。

 空母という兵器は、本来「航空戦力の投射」を実現する存在です。しかし「アドミラル・クズネツォフ」は、その逆、すなわち「力を投射できなくなったこと」を証明する象徴となってしまっています。

 岸壁に繋がれたこの艦は、もはや海を支配することも、航空戦力を展開することもなく、ただそこにあるだけの、巨大な鋼鉄の塊です。その姿に映るのは、帝政ロシア、ソ連、そして現代ロシアが追い続けた「大国幻想」の残照であると言えます。

 ロシアは、その威信をかけて再び「アドミラル・クズネツォフ」を海洋へと送り出すことに取り組んでいると考えられますが、もし空母として稼働状態に入ったならば、それはそれで、ただでさえウクライナ侵攻で戦費がかさんでいるロシアの国家財政にとっては重荷になるでしょう。

 ひょっとしたら、現在のロシアにとっては、今のような「浮いているだけの形」が一番いいのかもしれません。

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Writer:

1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。

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