「お召列車」なぜ廃止? 老朽化だけではない、日本と異なる英国王室の事情 150年以上の歴史に幕

英国王室が王室専用列車、いわゆる「お召列車」を廃止する意向を示しました。150年以上の歴史を持つ王室専用車両は、どのように生まれ、そしてどのような経緯と背景で消えていくのでしょうか。

鉄道旅を牽引した英国王室の女性たち

 英国王室と鉄道のつながりは、鉄道発祥の地であるだけあって19世紀に遡ります。

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王族で初めて列車で旅をしたアデレード王妃の専用乗用車両。1842年。現存する最古の王室用乗用車両(Science Museum Group、(C) The Board of Trustees of the Science Museum)

 イギリス国王ウィリアム4世(在位1830~1837年)の崩御後に未亡人となっていたアデレード王妃は、「速いスピードで走る列車に乗ると気が狂う」という当時の一般的な迷信をものともせず、1840年、王室で初めてノッティンガムからリーズまで列車で移動したのです。鉄路の旅がよほどお気に召したのか、同年には早速、自分専用の車両を造らせました(サイエンスミュージアムグループによる)。

 その2年後の1842年、アデレード王妃の姪にあたるヴィクトリア女王(在位1837~1901年)が、英国君主として初めて、スラウからロンドンのパディントン駅まで列車で旅しています。

 ヴィクトリア女王のための王室専用車両が造られたのは、それから27年後の1869年のこと。2両の内装は、金の純度が95.8%以上という23金と、青の絹を使った豪華絢爛なもので、すべて女王自らが選びました。完成当初は走行中に外気に触れずに車両間の移動ができませんでしたが、後に不便さを解消するため台車などに改造が加えられています。女王の鉄道旅を快適にすべく工夫が凝らされていて、今でもヨークにある鉄道博物館の目玉展示のひとつになっています。

 エリザベス2世が愛した現在のお召列車も、2026年から英国の国内を周遊した後、2027年初頭に博物館に収蔵される予定です。

 鉄道200周年にあたる2025年は、伝説の蒸気機関車が走る記念イベントなど、各地で企画が目白押しで鉄道の話題に事欠かない年になっています。明けて2026年は、英国各地を惜しまれつつ走るお召列車が話題をさらうことになりそうです。

【こ、これが王室クオリティ…】豪華絢爛「ヴィクトリア女王車両」を見る(写真)

Writer:

アーティストとして米CNN、英The Guardian、独Deutsche Welle、英BBC Radioなどで紹介・掲載される一方、鉄道ジャーナリストとして日本のみならず英国の鉄道雑誌にも執筆。欧州各国、特に英国の鉄道界に広い人脈を持つ。慶応義塾大学文学部卒業後、ロンドン大学SOAS修士号。

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