日本有数の「私鉄王国」揺らぐ 「富山地方鉄道」一部廃止案 乗ってわかった“ボトルネック”と代替ルート

地方私鉄では日本有数の路線網をもつ「富山地方鉄道」の鉄道線が6年連続の赤字に陥り、一部廃止案が浮上しています。実際に乗ってみると、確かにボトルネックとなっている箇所や、代替案も見えてきました。

立山線は「大切」 それ以外は「検討の余地あり」

 立山線と不二越・上滝線の「あり方検討会」は2025年6月5日に開かれ、出席者は立山線について、立山黒部アルペンルートにつながる観光路線として大切だという認識で一致しました。

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富山地方鉄道の本線を走るオリジナル塗装の14760形(大塚圭一郎撮影)

 筆者も全く同感で、富山地鉄が2025年度予算で2億5234万円の赤字になると見込んだ五百石―立山間の損失を穴埋めするために自治体が補助金を支給したり、自治体が線路や施設などのインフラを保有し、富山地鉄が運行を担当する「上下分離方式」への移行を検討したりする必要があると考えています。

 一方、富山地鉄が25年度に8676万円の赤字になると見込んだ不二越・上滝線は月岡―岩峅寺間の必要性が問われそうです。

 富山市街には富山地鉄の路面電車(軌道線)が走っており、軌道線の南富山から不二越・上滝線で岩峅寺、続いて立山線に乗り換えて立山に至る方法もあります。赤字区間の月岡―岩峅寺間を通るルートですが、岩峅寺での立山線への乗り継ぎが必ずしも良くないのがボトルネックで、平日、土休日ともに最大で43分待つ必要があります。

 もしも月岡―岩峅寺間を鉄道で結ぶ必要はないとの判断になり、深刻化しているバス運転手不足の問題をクリアできるのであれば、この区間を路線バスに切り替えることも選択肢になるかもしれません。南富山から立山へ移動する利用者には、いったん電鉄富山方面へ戻る形となりますが、本線の稲荷町を経由した乗り換えルートに誘導し、電鉄富山―立山間の特急停車駅に稲荷町を追加する方法が考えられます。

富山を発展させた「私鉄王国」揺らぐ

 そもそも富山地鉄がこれだけ広範にわたる路線網を築いた背景には、前身である富山電気鉄道の創業者の故・佐伯宗義氏が掲げた「一県一市街化構想」があります。これは「どのような山奥に住んでいても教育・文化・就労の自由が保障されるべき」という理念に基づいており、富山県の人材育成と雇用の創出、観光客の呼び込みに貢献したことは疑う余地がありません。

 他方、少子高齢化や過疎化により、特に郊外の区間で利用者数が落ち込み生じている赤字が、富山地鉄の経営を揺るがしていることも確かです。

 富山県の新田八朗知事は「あり方検討会」を通じて「事業者、沿線自治体とともに持続的な鉄道運営に向け努力してまいりたい」とコメントしました。重要な足を残すために「もっと利用しなければいけない」(沿線住民)という機運を高め、富山地鉄に業績改善の努力を促すとともに、自治体が経営を下支えする仕組みを策定することで運行を軌道に乗せることが強く求められています。

【長い!】これが「富山地方鉄道」の路線図です(写真)

Writer:

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学フランス語学科卒、共同通信社に入社。ニューヨーク支局特派員、ワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。「乗りもの」ならば国内外のあらゆるものに関心を持つ。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。

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