“犯人ネット晒し”は序の口!? 「鉄道vs銅線ケーブル窃盗団」許さん! 対策高度化も“いたちごっこ”の泥沼に

欧州各地で鉄道の銅製ケーブルが盗まれ、列車の運行に影響が出る事態が相次いでいます。鉄道事業者はあらゆる手段を駆使して対策を進めていますが、犯行も“プロ集団化”が進んでおり、いたちごっこが続いています。

振動を感知する最新ケーブルを開発

 ところが近年、銅線窃盗に由来する鉄道遅延が再び増えてきているというのです(ネットワーク・レール社による)。

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セレクタDNAのビーズを踏んだ靴底(画像:ネットワーク・レール社)

 昨今の銅価格の高騰を受け、犯罪も組織化が進んでいます。現在、英国では60ほどの金属窃盗団が暗躍しているそうです。2021年3月にロンドン警視庁が金属窃盗団のメンバー20人を一斉に逮捕したところ、ロンドン近郊の金属窃盗が半減しました(英国金属リサイクル協会サイトより)。

 英国でのケーブル泥棒の起訴率が低いことや、起訴されても刑罰が軽いことも、犯罪の抑止力があまりないことの一因だと問題視されています。

 前述の、ネットワーク・レール社のサイトに顔写真などを掲載された窃盗犯は約200万円相当の盗難で「懲役8か月執行猶予2年、200時間の無給労働と、ネットワーク・レール社へ約50万円の賠償金の支払い」という判決です(ネットワーク・レール社のサイトによる)。

 日本の山口県宇部市で2024年に銅製ケーブル323万円相当を盗んだ自動車販売業、堀江誠龍被告(22)に下された判決は、被害額に相当する金額を全額弁償したうえで「懲役3年、執行猶予5年」でした(NHKによる)。英国の方が日本に比べて窃盗犯にやや甘いといえるかもしれません。

 盗難金属を買い取る側も、金属回収業者としての登録をやめ、廃棄物運搬業者免許の免許で営業することで厳格な法律をかいくぐっているようです(英国金属リサイクル協会サイトよる)。

 英国内で盗難ケーブルを売りさばくのではなく、そのまま海外に輸出する犯罪組織も増えています。

 こうした犯罪の巧妙化、組織化、グローバル化に対抗するため、対策も、また進化しています。

 近年では見回りにドローンも導入されています。

 また、2024年からは窃盗犯が通りそうなところに、踏みつけると靴底にセレクタDNAが塗布される仕組みの球状のカプセルをばら撒き、ブルーライトや警察犬で犯人を追跡することが可能になりました。

 ケーブル自体も進化しています。ネットワーク・レール社では、2025年5月から、銅線から20m以内に侵入者があった場合、その位置を正確に探知できる仕組みが導入されました。不審者が歩いたり、地面を掘ったりすると、銅線とともに埋め込まれている光ファイバーケーブルがその振動を感知して緊急信号を送るという新しい技術です(フォーカス・センサーズ社サイトによる)。

 銅価格高騰により犯罪が組織化し、それに対応して鉄道業界では対策に高予算を割かざる得なくなり、その盗難防止策を突破するために、より犯罪組織がプロ集団化する。いたちごっこは銅の価格高騰が続く限り終わりそうにありません。

【これはひどい…】無残に刻まれた銅製ケーブル(写真)

Writer:

アーティストとして米CNN、英The Guardian、独Deutsche Welle、英BBC Radioなどで紹介・掲載される一方、鉄道ジャーナリストとして日本のみならず英国の鉄道雑誌にも執筆。欧州各国、特に英国の鉄道界に広い人脈を持つ。慶応義塾大学文学部卒業後、ロンドン大学SOAS修士号。

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