ここまで化けたか~「元ディーゼル特急の豪華列車」 全席グリーン車以上の席の意外すぎる勝負どころ 「当たり前の機能がない」が出発点
全席が「グリーン車以上」の豪華列車「はなあかり」を堪能。手の込んだ広くて快適な座席ですが、特急列車などでは当たり前の機能がないことに気づきました。デザイナーに理由を聞くと、“勝負どころ”が違うことが分かりました。
「あれ、リクライニングしないの?」
ほぼ満席で走っていた「はなあかり」も、三ノ宮(神戸市)では10人を超える利用者が下車しました。そこで、空席になった1人用座席にも腰掛けてみました。

回転させられるため好きな方向から車窓を楽しめる半面、同じモケット生地でも座り心地はグリーン車のボックス席よりやや硬く感じました。
そして、今更ながら気づきました。グリーン車以上では背もたれが大きく倒れるのを売りにした座席も多い中で、「はなあかり」にはリクライニング座席が全くないのです。
川西さんにリクライニング座席を導入しなかった理由を質問すると、「油圧シリンダーによって好みの角度に倒せるリクライニング座席を造ろうと思ったら、それなりのロット(数量)がいるのですよ」という答えが返ってきました。「はなあかり」の座席数では発注できる数量にならないため、リクライニング座席は見送ったというのです。
その代わり、背もたれが倒れなくても利用者が快適に過ごせるように工夫していました。それは「どこで勝負するのかというと、お客さんの占有面積を広げることなのです」(川西さん)と解説し、利用者1人当たりの使える空間を広げたことを明らかにしました。
「はなあかり」に乗る前に新幹線を利用する顧客もいる中で、「『さっき乗っていた列車より広い』と思ってもらえるように、東海道・山陽新幹線のグリーン車より専有面積を広くした」そうです。
確かに尾道まで路線バスに乗ってきた筆者も、乗り換えた「はなあかり」のボックス席と足元が断然広いのに心を動かされました。居住性がとても優れており、出発した約5時間20分後に大阪のプラットホームに滑り込むと「もう着いてしまったのか」とさらに乗っていたい気分でした。
はなやいだ気分で、心にあかりを灯してくれるような車内空間の陰には、デザインの工夫と顧客満足度の追求への並々ならぬ情熱とこだわりがあったことを実感して頭が下がりました。
Writer: 大塚圭一郎(共同通信社経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員)
1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学フランス語学科卒、共同通信社に入社。ニューヨーク支局特派員、ワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。「乗りもの」ならば国内外のあらゆるものに関心を持つ。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。
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