スバル渾身の高級車「遠くへ、美しく」を追求した意欲作なぜ失敗した? メカニズムもデザインも秀逸だったのに!

1991年9月に富士重工(現SUBARU)が発表した高級クーペ「アルシオーネSVX」は、伝統の水平対向6気筒エンジン+4WDに、ジウジアーロが手掛けた美しいスタイリングを組み合わせたのに、なぜ成功しなかったのでしょうか。

いろいろ重なりすぎた失敗の要因

 加えて、先代の「アルシオーネ」は小型車の「レオーネ」のシャシーを流用したことでホイールベースが短く、また空力性能を追求するあまり極端なウェッジシェイプとなって、なんとも形容し難いスタイリングになっていました。その反省から、今回はデザインをイタリアの鬼才ジョルジェット・ジウジアーロ氏に依頼し、誰が見ても美しいクーペとしています。

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通商産業省(現・経済産業省)の「国民車構想」に基づいて富士重工が開発した軽自動車のスバル「360」(画像:SUBARU)。

 しかし、セダンやステーションワゴンに比べるとクーペは乗る人を選ぶクルマです。いくら美しく高性能なクルマだったとしても、ブランドイメージが希薄なスバルの高級クーペに、ポンと300万円以上の金額を支払う人はそう多くはありませんでした。しかも、「アルシオーネSVX」は、フラット6を搭載したことで燃費が極端に悪いという問題も持ち合わせていました。

 実際、「アルシオーネSVX」は発売後しばらくすると、ユーザーから「街乗りの燃費は平均して4~5km/L、ひどい時には3km/L台にまで落ち込む」との悲鳴が挙がります。この数値は当時の安価なガソリン価格を考慮しても看過できるものではありません。これでは、キャッチコピーの500マイル(804キロ)走るのに一体どれほどのガソリンを浪費するかわかりません。

 おまけに登場したのはバブル崩壊直後という最悪のタイミング。消費者マインドは「モノ重視」から「コト重視」、すなわち「見せびらかし」の要素が強い高級クーペから、家族や仲間たちと大切な時間をともにできる「RV車」へと移り変わり始めた時期でもありました。結果、1996年の生産終了までに国内登録された「アルシオーネSVX」は5944台に留まったのです。

「アルシオーネSVX」は、富士重工にとっての意欲作でしたが、デビュー時期のタイミングの悪さ、燃費性能の低さ、高級車を販売するだけのブランド力のなさ、こうしたさまざまな要因から不発に終わったと言えるでしょう。

 結果、富士重工製のクーペ専用モデルはこの後しばらくのあいだ開発されず、16年以上経った2016年にデビューしたBRZまで登場はお預けとなったのです。

【画像】これが富士重工/スバル初の高級グランドツーリングカーです

Writer:

「自動車やクルマを中心にした乗り物系ライター。愛車は1967年型アルファロメオ1300GTジュニア、2010年型フィアット500PINK!、モト・グッツィV11スポーツ、ヤマハ・グランドマジェスティ250、スズキGN125H、ホンダ・スーパーカブ110「天気の子」。著書は「萌えだらけの車選び」「最強! 連合艦隊オールスターズ」「『世界の銃』完全読本」ほか」に

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