もう「やられたらやり返す」部隊じゃない――概算要求に見る陸上自衛隊の“変貌”

防衛省が発表した来年度の予算概算要求では、より長射程のミサイル、より遠距離の敵探知能力などに重点が置かれています。ここから、将来の陸上自衛隊の姿が見えてきます。

陸自“海”にも進出…つまり?

 令和8年度概算要求では、令和9(2027)年度中に各種無人防衛装備品(アセット)を組み合わせた多層的沿岸防衛体制「SHIELD」(Synchronized, Hybrid, Integrated and Enhanced Littoral Defense)を構築するための経費として1287億円が計上されています。

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護衛艦「いせ」で初の洋上発着艦訓練を行う陸上自衛隊のV-22「オスプレイ」。陸海の連携も深まっている(画像:海上自衛隊)。

 SHIELDは10種類の無人アセットを組み合わせた防衛体制ですが、この中には従来であれば海上自衛隊の担当領域であった海で活動する、陸上自衛隊の小型多用途UUV(無人潜水艇)と、小型多用途USV(無人水上艇)が含まれています。

 このように、概算要求では遠距離から敵を探知する能力と、より長射程の迎撃能力に重点が置かれています。これが陸上自衛隊の“役割”を大きく変容させる要素なのですが、こうした傾向は陸上自衛隊に限ったことではありません。

 たとえば、アメリカ海兵隊は中国の軍事的台頭などに対応するため、2020年に「フォースデザイン2030」という海兵隊の再編計画を発表し、その方針に則った再編が進められています。この計画は人員の大幅な削減や、戦車の全廃、有人航空機の削減を実施する代わりに、長距離対艦ミサイルとUASを増強するというものです。

 この方針が継続されれば、アメリカ海兵隊は「敵対勢力に奪われた土地を奪還する軍隊」から、「奪われることを阻止する軍隊」に生まれ変わることになります。

 陸上自衛隊の場合はロシアの脅威や大規模災害などへの備えも必要なので、アメリカ海兵隊のようなドラスティックな再編はできませんが、防衛力整備計画で進められている陸上自衛隊の戦力整備は、アメリカ海兵隊と同様に、奪われることを阻止する組織となることを目指しているのではないかと思います。

【ド迫力!】これが陸自の「射程1500キロを目指すミサイル」発射シーンです!(写真)

Writer:

軍事ジャーナリスト。海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書は「最先端未来兵器完全ファイル」、「軍用ドローン年鑑」、「全161か国 これが世界の陸軍力だ!」など。

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