有名になっちゃった「秘密のスパイ機」なぜ今も現役…? しかも超“クセ強” 異形の偵察機70年のとんでもヒストリー

アメリカ空軍の異形の高高度偵察機U-2「ドラゴンレディ」が1955年8月に初飛行してから70年。その間、秘密スパイ機として有名になり、冷戦も終結して久しいですが、今も31機が現役です。古希を迎えたご長寿の理由を探ります。

有名になっても失われなかった「存在意義」

 1956年7月、ソ連領空に初めて侵入偵察しますが、ソ連軍は迎撃できず、体面を保つため領空侵犯を公にして抗議することもしませんでした。

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飛行準備中のパイロット。宇宙飛行士並みの与圧スーツを着用し、食事制限を含む様々な事前準備と装備が必要になる(画像:アメリカ空軍)

 CIAによるとU-2の領空侵入は約20回とされていますが、1960年5月1日、ソ連軍は地対空ミサイルでU-2の迎撃に成功します。「U-2撃墜事件」です。アメリカはスパイ飛行を否定し、NASA観測機の不慮の越境事故と偽るつもりでした。パイロットのフランシス・ゲイリー・パワーズは「Lピル」は使わずとも高空で撃破されれば生存は不可能、機体はバラバラで証拠は無いと見なしていたのです。

 しかし、パワーズは捕虜となり、公開裁判でスパイ飛行であることを認め、その様子が対外宣伝に利用されてアメリカの外交的失点になりました。U-2のシビア過ぎる任務はパイロットに「宇宙飛行士+スパイ」という無茶なスキルを要求したのです。

 ちなみに撃墜されたU-2の残骸は丹念に回収されてソ連で分析され、コピー機の開発が試みられましたが、最終的に放棄されています。さすがのソ連でもシビア過ぎる機体の真似は難しかったようです。

 1960年代には秘密スパイ機U-2は有名になってしまい、他の撃墜事案や事故、人工衛星の登場で一時は退役の噂も出ましたが、衛星にない柔軟性と即応性、精度が期待できるISR(情報・監視・偵察)プラットフォームとして存在意義がありました。

 CIAは1970年代に運用を止めたといわれますが、機体は1989年まで生産が続けられ、現在も31機が現役で空軍やNASAの宇宙開発、南西部国境の監視任務や海外での情報収集などに運用されています。

 2023年にはアメリカ本土を横断した中国の偵察気球に接近し、上空から撮影を行っています。アメリカも過去に偵察気球を飛ばしていたことから、なにやら因縁めいたものを感じます。

 進化した分散型ISR衛星コンステレーションの整備が進んでおり、米空軍は2026年度に残存するU-2全機の退役を予定しています。

 しかし、高高度偵察プラットフォームは放棄されるわけではありません。ステルス偵察ドローンRQ-180や、次期ステルス爆撃機B-21「レイダー」のISR機能がU-2の後継として想定されています。「秘密スパイ機で有名」という矛盾する異形機でしたが、高高度偵察のみに特化した存在自体がアメリカの国力を象徴していました。70年もの長寿だったのには理由があります。

【激写】U-2から捉えた中国の「偵察気球」を見る(写真)

Writer:

1975(昭和50)年に創刊した、50年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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