反響多数! 米陸軍が切り捨てた「戦車みたいな軍用車両」海兵隊が欲しがっているのは本当か? 噂の出所に隠された思惑とは
アメリカ陸軍が調達開始からわずか1年で採用を取り止めたM10「ブッカー」戦闘車。ただ、一方で海兵隊が同戦闘車を欲しがっているというハナシもあります。本当なのか、情報の出どころを探りました。
米議会や軍内での動きはどうなの?
実際、「TASK&PURPOSE」の記事が掲載された直後、軍事系のアメリカ・メディアでは活発な意見交換が行われ、それに煽られる形で日本でも動画やSNSを通じた拡散が起こりました。

それから約3か月、海兵隊のM10「ブッカー」導入議論は、どうなっているでしょうか。結論をいえば、海兵隊においてM10導入に繋がるような動きはなく、米議会で取り上げられた記録もありません。
そもそもアメリカ海兵隊は現在、前述した「フォース・デザイン2030」の名の下に、装備体系を見直している真っ最中です。これは中国沿岸部における火力投射能力の向上を見据えて、アメリカ海兵隊に期待されていた従来型の上陸戦の比重を下げるというものです。
これに伴い、戦車部隊や重砲兵部隊を廃止ないし大幅削減する一方で、分散・機動的で、小回りの利く軽量部隊を多数新設し、海洋縦深に即応展開できる態勢への移行を目指しています。ただ「フォース・デザイン2030」自体、2020年に策定されたばかりで現在は、折り返し地点を過ぎたばかりの状況です。
もちろん、これほど大がかりな軍の変革となれば、割を食う組織も出てきます。そもそもM10「ブッカー」が海兵隊に望ましい装備という主張は、第3軽装甲偵察大隊の幹部が発言したものです。
軽装甲偵察大隊は、まっさきに最前線で危険な任務に投入される役割である一方、1980年代に採用され、老朽化したLAV-25の後継となる次世代型先進偵察車(ARV)の火力不足に悩まされている当事者でもあります。
これらを鑑みると、「フォース・デザイン2030」では拭いきれない現場部隊の不安と不満が、M10「ブッカー」導入提言の下地にあると見て良さそうです。
M10「ブッカー」については、州兵への移管や、敵役(OPFOR)として演習場などのトレーニングエリアで構内専用車として使用する案が出ています。また、それ以外にも対外有償軍事援助(FMS)として台湾やウクライナに売却・供与する案なども、各種メディアで提唱されています。
中止になったとはいえ、正式採用までこぎ着け、80両も製造されてしまったM10「ブッカー」の処遇と決着までには、まだひと波乱あるかもしれません。
Writer: 宮永忠将(戦史研究家/軍事系Youtuber)
1973年生まれ、上智大学文学部史学科卒業、東京都立大学大学院人文科学研究科中退。 雑誌編集者、ゲーム会社ウォーゲーミングジャパン勤務等を経て、各種メディアにて歴史・軍事関連の執筆や翻訳、軍事関連コンテンツの企画、脚本などを手がける。Youtube「宮永忠将のミリタリー放談」公開中。
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